整枝剪定を早く終えるためにはすべきこととは(2)~理解がないから遅くなる~
前回の(1)では連載の前段として、
1.気候変動に伴いナシの作業体系が変わりつつある
2.そのうち整枝・剪定(以下「剪定」)作業は実施期間が短くなっている
3.だから早く終わらせる必要が生じている(急剪定時代の到来)
という話を投稿しました。
では具体的にどうしたらいいか、について以降は書いていきたいと思います。
今回も前回に続き概念的な話になりますのでご容赦ください。
ただとても大切な話です。
特に若い人は、このような「考え方の一丁目一番地」を押さえておかないと、後々苦労することになると思います。
いわば果樹栽培の「土台」です。
果樹は永年性作物です。他の農作物以上に初期の学びが利いてきます。
苗木や若木のうちに施した悪手が、生涯ずっとマイナスの影響を及ぼし続けることが多々あります。
しっかり押さえておくことをおすすめします。
本質的な仕事の早さは理解して初めてついてくる
前回も触れましたが基本的には「急がば回れ」ということになります。
持続可能な早期剪定の終了ためには、栽培の基礎について学ばなければいけません。
要はこういうことです。
以前私が牛尾剛さんのnoteの記事を「我々の仕事にも当てはまるな」と思って、一部引用してツイートしたところ結構バズったんです。
「(農業者以外も)皆んな同じこと思ってるんだな」と実感しました。
仕事の理解が出来ていないまま頑張っても限界があって、どこかでボトルネックが生じてしまいます。
残念ながら、最優先に早さを求めると仕事は早くなりません。
正確にはある程度早くなりますが、ある程度で限界に達し、そこから先は速くなりません。
下手をすると急ぐあまり正確性を欠くようになり、精度が落ちます。
仕事が本当の意味で早く正しく出来るようになるためには、勉強をして理解を深めなければいけない。
すなわち、その本質を掴まなければいけません。
早さは後からついてくるものなのです。
梨栽培において理解しなければならないこととは、下記が当てはまります。
・なぜ果実は大きくなるのか、美味しくなるのか
・逆になぜ小さくなるのか、不味くなるのか
・なぜこの時期までに摘果を終わらせなければいけないのか、摘芯を済ませなければいけないのか(そもそも摘芯をしたほうがいいのか)
・なぜ切り返しはこの長さなのか、誘引はこの角度なのか
これらの問いを根拠を持って明確に、言語化して答えられなければいけません。
それが「理解」です。
理解を深めるためには、勉強や努力からは逃れられません(※)。
しかしただ我武者羅にやってもダメで、「正しい」勉強や努力が大切です。
これは全ての分野に当てはまることです。
そうやって出来た土台があって初めて、剪定含めた農作業を楽に出来、様々な技術や情報が活きてきます。
「フワッとした話だなー」と思った方はすいません。
理解とか勉強っていうけど具体的に何だよ、と。
以下で詳細に触れていきたいと思います。
植物生理(原理原則)を理解する
ではナシ栽培における正しい勉強・努力の仕方とは何か。
それは植物生理を知り、理解することです。
ざっくり言うと、さっきの問い(なぜ果実は大きくなるか等)に答えられるかどうかということです。
植物生理とは、「植物」が「生」きている「理(ことわり)」のこと。
植物のもつ様々な機能、生長、運動(刺激に対する反応)など、植物に固有の現象や性質を指します。
平たく言えば、植物の動きとその仕組みを理解することです。
植物生理を学ぶことで植物がそもそもどんな生き物なのかがわかります。
当然のことながら農業は農作物という植物を取り扱う仕事です。
つまり植物生理は農業の土台となる基礎知識なのです。
技術や情報は植物生理という土台(基礎知識)があって初めて活きてきます。
こんなイメージです。
「剪定講習会に通って技術を学んでいるのに一向に上達しない」
要は結果が伴わないという方は、「管理を行った結果として植物がどう反応するか」という根本の学びが薄いように感じます。
正解がわからない状態に近いかもしれません。
だから迷いが生じます。それは作業の遅滞に繋がります。
しかし植物生理を学べば答えは自ずと分かります。
ナシの樹がそもそもどんな育ち方をするのか知り、その流れを上手く掴むことが一番大切なのです。
実際、優秀な梨生産者は年齢を問わずナシという生物を熟知しています。
植物生理という格式張った言葉は知らないかもしれません。
しかし概念としては確実に理解しています。
普遍的なルールを掴む
「常識にとらわれるのではなく、原理・原則・本質を見極めて、普遍的に正しいかどうかを判断基準にする」
「われわれをとりまく世界は、一見複雑に見えるが本来、原理・原則にもとづいた『シンプル』なものが投影されて複雑に映し出されているものでしかない」
これらは京セラの社長を務めた稲盛和夫氏の言葉です。
「全然畑違いの人の話すんな」と思わないでください。
先程からの話に大きく通じるところがあります。
繰り返して書いておりますが、物事には一定のルールがあります。
ナシ栽培においても然り。
植物生理がそのルールです。
私の圃場がある千葉県白井市と県内他市町村、さらには他都道府県では栽培環境が異なります。
しかし扱っているのは同じナシです。
だから全国の生産者に限らず技術者・研究者含め皆んなで議論ができます。
大切なのはナシ栽培の礎となる植物生理の理解。
加えて、その上に立脚する各地の個性をきちんと理解すること。
そして自園の管理に落とし込んでいくことが肝要です(これが栽培技術)。
すると「管理の指針」ができます。
「自園のルール」や「自身の型」と言い換えてもいいでしょう。
たとえば、
「植物生理からするとAという選択が正しい。しかしこの圃場は栽培環境が○○だから、A+という管理にしてみよう」
換言すると、
「教科書的には予備枝誘引の角度は45°だ。…しかしこの木は暴れ気味だか切り返しは長めにして、角度も30°くらいに低く抑えよう」
みたいな感じです。
このように園や樹ごとの管理の指針が決まると、悩むシチュエーションが極端に減ります。
考えて作業の手を止めることがなくなります。
すなわち作業スピードが上がり、剪定を早く終わらせることができます。
「天候次第」は大きな間違い
こういう話をすると「その年の出来は結局天気次第だろ」とか「地域によって栽培技術は違う」とか「家によって管理方法は違う」とか「もともと(先代が優秀で)出来の良い畑だから立派なことが言えるんだ」とか言われます。
だから「植物生理なんて知らなくてもいいんだ」、「親(地元の先輩)の言う通りやっていればいいんだ」と。
しかし、その反論は正直的外れです。
ナシ栽培において、篤農家も普通の農家も、九州の生産者でも東北の生産者でも、試験場の研究員でも、普及員も営農指導員の先生方でも、全国誰でも必ず共有していることがあります。
何だと思いますか?
「ナシ」という生物を扱っているということです。
全国各地津々浦々、様々な気候風土があります。
そして地域の慣習や住む人々の行動様式も性格も異なるでしょう。
しかし「ナシ」という同一の遺伝情報を持った生物を扱っていることは、客観的かつ紛うことなき事実です。
「鹿児島の幸水の樹」と「岩手の幸水の樹」は違う生物でしょうか?
違いますよね。
何処で栽培されようが、同じ遺伝情報を持ったニホンナシという生物の幸水という品種(Pyrus pyrifolia Nakai var. culta Rehd. cv. Kousui)です。
つまり扱っている生物が同じである以上、管理面における原理・原則は一緒です。
現地の気候や土壌環境で生育の仕方が異なるため、合わせて管理方法を調整する必要があり、樹の形状や側枝配置は違ってきてしまいます。
ただそれは結果的(後天的)なもので、どこで栽培しようがナシはナシです。
ナシとしての生育は全く一緒、ただ地域の栽培環境次第で変わってしまうわけです。
だからナシがそもそもどんな生き物なのか、生態を知ることがとても重要。
すなわち先ず「植物生理の理解」が欠かせないのです。
その土台の上に各地各人の技術や経験の蓄積が活きてきます。
これを無視してしまうと、他園を見たときに「うちとは管理(環境)が違うから参考にならない」と言い出して思考停止してしまいます。
違うんです。
そこで思うべきは「確かにうちとは管理(環境)が違う。しかし同じナシという生き物を栽培しているんだから、どこか共通項はあるぞ」です。
どんな園からも学びはあります。
それは他市町村でも、他都道府県でも、外国でも。
何度も繰り返しますが、同じ「ナシ」だからです。
まずこの大前提を共有しなければ、次回以降の話もすることができません。
剪定を早くするために、植物整理を理解しなければいけない。
ナシが元来どういう育ち方をするのか知らないと、間違った管理を常態的におこなってしまいます。
「ただ先人がやっていた」という理由だけで物事を決めてはいけません。
残念ながら先人の管理が成立していた栽培環境は。気候変動により既に大きく変わっています。
結果として、無駄な作業に時間を費やしてしまったり、考えなくてもいいことに思考の時間を割いてしまったりします。
植物生理を理解することはよいナシづくりのためでもあり、余計な作業をしたり悩んだりせずに剪定作業を早めるためにもなるのです。
長くなってきました。
今回はこれくらいにして、次回さらに植物生理の理解がいかに大切であるかを念押ししていきたいと思います。
クドいですか?
いいんです。それほど大切なことなのです。
大切なことは何度言ってもいいのです。
…というわけで今回は、とりまこのへんで。
次回は植物生理について深堀りしてきたいと思います。
まとめ
1.本質的な仕事の早さは理解して初めてついてくる
2.ナシ栽培おいては「植物生理」の理解が必要だ
3.植物生理は作業をする上でおこなう思考の土台(基礎)の部分
4.万物には普遍的なルールが有り、ナシ栽培においてのそれが植物生理だ
5.全国何処でも同じナシという生物を扱っている。各地でナシの生育がそれぞれ異なるのは、各地で栽培環境が異なるため。ナシという生物そのものの生長は何処でも変わらない
6.ルールを理解をすれば作業で悩まなくなる、迷いが消えて剪定が早くなる
以上
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