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第172回(2024年下半期)直木賞候補作を全部読んでみた
あっという間にまた直木賞の季節がやってきました。今回も候補作5作を全部読んでみたので、まとめて感想を書いていこうと思います!
ちなみに、今回私が好きだったのは受賞作の「藍を継ぐ海」です。直木賞受賞おめでとうございます!
朝倉かすみ「よむよむかたる」
北海道小樽の読書会サークルを題材にしたハートフルストーリーです。おもしろいのは、読書会のメンバーが78歳以上の超高齢者たちばかりというところ。
作中に登場する「だれも知らない小さな国」(https://amzn.to/40h2Vsq)を読んでからこの本を読むと、より楽しめるのではないかと思います。こちらは児童書の名作です。
ただただほのぼのしている物語ではなくて、若者から見た高齢者のヤバさとか、人間って歳とるとこうなるんだなぁみたいな感覚がたくさん見え隠れしているのがおもしろかったです。物語を彩る北海道の方言にもご注目ください。
伊与原新「藍を継ぐ海」
日本各地で大切なものを繋いでいく人々を描いた短編集です。
山口県見島の見島土、奈良県吉野のニホンオオカミ、長崎県長与町の被曝資料、北海道野知内に落ちた隕石、徳島県阿須町のウミガメ...。一風変わったものを題材に、長い年月をかけて受け継がれてきた想いや歴史を描いていて、読み終わった後はほっこりした気持ちになりました。
どの短編にもそれぞれの分野の専門知識を持った人が現れ、科学的な裏付けをしていくというところもよかったです。
さらに、物語に登場する土地土地の方言を丁寧に再現しているのもすごいと思いました。そこで住んでいるであろう人々を大切に描こうという気持ちが感じられて、そこにもほっこりしました。
去年は「海に眠るダイヤモンド」にどハマりしていたので、長崎の原爆を題材にした「祈りの破片」が特に心に残っています。「海に眠るダイヤモンド」にも出てきた浦上天主堂も登場します。
荻堂顕「飽くなき地景」
戦後を舞台に、大手建設会社の骨肉の争いを描いた物語です。
無銘ながら一族の守り刀として受け継がれてきた日本刀を主軸に展開するストーリーと、祖父から父、父から息子へと伝えられてきた複雑で厄介な愛情に魅入られました。
木下昌輝「秘色の契り 阿波宝暦明和の変顛末譚」
江戸時代の徳島藩主・蜂須賀重喜を中心に、彼らを支え、徳島藩の未来のために動いた忠臣たちの働きを描いた時代小説です。
史実を元にした作品ではあるものの、読みやすくエンタメ化されていてとてもおもしろかったです。
自分たちが扱いやすい殿様ばかりを藩主に据え利権を貪りまくる家老たち、借金まみれの藩、悪政に苦しむ民、藍作りの高い技術を悪どい商売で買い叩く大商人たち...。まるで令和の話をしているかのような状況に感情移入が止まりませんでした。
そんな徳島藩を救うために動き出したのが、中級官僚たちです。幼い頃から一緒に育った悪友4人組が、有能な藩主の元で五家老を討ち倒し、徳島を栄えさせ、新たな政治を行なっていくという、わかりやすい勧善懲悪に胸が躍りました。
さらに、混乱に乗じて徳島藩を乗っ取ろうとする大悪党まで現れるという設定盛りまくりのエンタメ小説です。
史実の隙間で見事に遊び尽くしたなという印象の物語で、友情!努力!勝利!という展開が好きな人にはめちゃくちゃ刺さると思います。強い覚悟と聡明さで夫を支える妻たちもかっこいいので、ぜひご注目ください!
月村了衛「虚の伽藍」
バブル期の京都を舞台に、お坊さんとヤクザと権力者が京都の土地を奪い合う社会派サスペンスです。
仏教を題材にした小説というところがやや珍しく、真面目で誠実な若き僧侶が欲に飲まれ腐っていく姿に鳥肌が立ちました。
月村了衛さんはライトノベル寄りの作風のイメージが強かったので、こんなのも書けるのか!と驚きました。欲望渦巻くドロドロ展開が見どころです。
最後に
今回の直木賞候補作はどれも雰囲気が違っていておもしろかったです。今までの直木賞と比べると、やや重めのストーリーが多かったような...。どんな本が好きかによってイチオシが分かれそうだなというラインナップでした!
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