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蜂巣もも「仮定の微熱」(たちくらようこ)
夏の終わりの午後、蜂巣ももさんの「仮定の微熱」という集まりにお邪魔しました。
仮定の微熱は、グループ・野原の演出家、蜂巣ももさんと、音楽家だけどそれだけじゃなさそうな佐々木すーじんさんの2人の稽古。
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お二人はとあるライブイベントをきっかけに知り合い、昨年のグループ・野原の公演に佐々木さんが参加サウンド・インスタレーションで参加しています。仮定の微熱は佐々木さんが蜂巣さんをお誘いしてはじまって、これまでの回では、佐々木さんが開発中の呼吸を使ったワークショップをしてみたりしたそうです。
まずは
それぞれの近況報告。免許を取りたいとか、最近の職場とか。40分くらいおしゃべりして、蜂巣さんがおもむろに、一緒に読みたいという本をとりだしました。
野口体操の創始者・野口三千三の「原初生命体としての人間」
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この本の、「非意識」が膨大にあるっていう考え方が面白い、というところから、蜂巣さんが「差別」を作品にしたいという話に。
蜂巣さんが考えているのは・・・人は差別をしない、という前提が苦しい。嫉妬や憎しみなど良くないとされる感情は意識しないところに存在し続けていて、その状況になると出てきて「差別」が生まれるのではないか?
それに対する佐々木さんの応答は「差別って、被害者がそれ足踏んでますからって言って初めて成立するようなところがある気がしていて、これ足を踏んでることになるのかっていうことを蓄積すること以外で防げないというか・・・差別感情みたいなものを封じて差別のない世界を作るのは私は無理な気がしていて、被害が生まれてからでないと対策できない、本質的に手遅れ、絶対手遅れになってしまうものっていう認識があるかも」
野口三千三「原初生命体としての人間」を読む
たちくらも交えて、はしがきから3段落づつ音読します・・・本の内容はぜひご自身で読んでみてください。びっくりします!ほんとに!
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蜂巣さん「一文一文に丹精込めて、概念を一から書き直している・・・そうやって作品を作りたいって思う」
「そうやってってどうやって?」
佐々木さんが、蜂巣さんの頭の中を引き出し始めます。
蜂巣さん「自分が演出する時、既にある台本の、文章で成立しているもの、作家の概念で成立しているものを無理に遂行しようとすると負荷がかかるんだけど、うまくいくポイントが見つかると、途端に全部が整合性があって、(佐々木さん「1本、線が通るみたいな」蜂巣さん「うんうん!」)無理しなくても全体が俯瞰できるみたいな、すっと通るみたいな感触になることが良くある。いろんなことがわかって整理されていって、それらの要素、全体感が俯瞰できるようになった時に起こりうるんだけど。そういうときは自分の言葉もしっかりするし、俳優との共通言語も増える。それはどっかから借りてきた物ではなくて、稽古場で経験的に蓄積されたものでやり取りできる、みたいな感覚があって。その感触にすごい近い感じがしている」
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ちなみに、野口整体の創始者の野口さんは晴哉さんという方で、別人です。親戚でもないそうです。
10分休憩、ののち
佐々木さんが、自分が何をしたいのかまだ良くわかってないんだけど、と前置きしつつ、トー横キッズが気になっている、と言い出しました。
「彼らがいきなり演劇とかアートとか始めたらめっちゃ面白いし、まずはそういう人たちにもちゃんと届く形をちゃんと考えたい」
「下の世代に対して罪悪感があるというか、こんな日本でごめんみたいな気持ちがあって、罪悪感を減らせることをしようかなって思っているのかもしれないんだけど」
下の世代にということはあんまり考えたことなかったかも、という蜂巣さんも、世代が違う人との接点として「ボイスポコチャ」という音声配信アプリでの体験を話してくれました。このアプリの利用者は20代前半くらいの方やママさんが多く、蜂巣さんくらいの年齢はあんまりいないそうなのです。
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仲良くなった配信者さんと別のアプリで会話したりとか、配信をしてみたら自分が聞いてる配信者さんがリスナーとして来てくれて、有名人来た!て思った自分のファン心理にびっくりしたとか。
佐々木さん「ライブハウスとかギャラリーとか劇場とかじゃない違う回路をちゃんと作りたい、開発したい。会えない人と会えるとか、そういうこと全く知らない人が知れるみたいなのを開拓したいなってなんとなく思っている」
高山明さんの「マクドナルド大学」の話、演劇と関わりのない人を観劇に誘う難しさ、演劇のチケット代って高いよね、内容に見合うと思った額を後払いする方式だったらどうだろう?という話を経て、トー横キッズが後払いでお金払ってくれたら嬉しい〜ということで再びトー横キッズの話に。佐々木さんは「自分が出会わない人で、かつ、弱者としての属性を複数持っているような人に届けられないか、協働できないか」ていうイメージで、具体的な方法や関わり方はまだわからないということだったのですが、とりあえず場所を共にしてみるっていうのいいかもね、という提案が。
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蜂巣さん「そこで作品がどういうふうに作られるかとかは、場を共にしたら、結果出そうな気がする」
佐々木さんも「そうだよね」と納得した様子。
その後も、蜂巣さんが「年上で、家がないとか生活苦がある人に興味があるかも」って言ったら、佐々木さんが山谷のドヤ街に一泊した時の話をしてくれて、現在のドヤ街はこんな感じとか、ホームレス支援をしているNPOのサイトをのぞいてみたり。
メーテルリンク「群盲」を読んでみる
最後の1時間で、メーテルリンクの戯曲を読みます。童話「青い鳥」の作者として有名なメーテルリンクですが、劇作家でもあるんですね。
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戯曲集の中から、1時間で読めそうな長さということで選んだ「群盲」。
森の中に置いてきぼりにされてためくらたち・・・頼りの神父様は戻ってこない・・・もうどうしようもないぞ、どうなるのー!?というところまで読んでタイムアップ!
佐々木さんの感想は、「何かを象徴しているような気がする・・・目が見えないっていうことを、ものがわからない人たちとして扱ってるのかなって思ったりもしたけどね」
蜂巣さんの感想は、「視覚で確かめられない分、言葉が強くなりそう・・・昔はこうだったとか話してると、若干そっちの世界に接続して、現実じゃないところにもつれてってくれる作用にもなるんじゃないかな、言葉が。言葉自体を扱っているような感じもして」
目が見えない人たちが森で迷子になっている話、とはとらえないお二人。
お二人のお話は続きそうなのですが、予定終了時刻になったため、本日の仮定の微熱はささっと解散となりました。ダラダラしないで帰るのも継続のコツなのかもしれません。
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蜂巣さん、佐々木さん、たくさんのお話ありがとうございました ♪
哲学対話みたいな稽古でした。お二人とも話すのがゆっくりで、適切な言葉をみつけるまで、いくらでも黙っている。聞いているほうも、相手が伝えたいことを言いきってボールを渡してくるまで話さない。相手が伝えてくれたことはまるごと受け取って、受け取りながら頭に浮かんだことをゆっくり言葉にしていく、ようなやりとりでした。とても心地よい、交流と吸収の時間でした。
そういえば、稽古てことだったのですが、なにかの練習をするとかつくるとか、どんなものをつくるかっていう相談とか、そういう作品制作に向けての具体的なこと、一切してませんでした。互いの興味とやりたいことをゆっくりとさぐりあい擦り合わせていく、そういう段階から始まる稽古、贅沢って思ってしまったけど、作品のつくりはじめって本来そういうものであるべきなような気もします。
おまけ
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「原初生命体としての人間」を読んだ方はピンと来るかもしれない。
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