わたし 引きこもる
姉が引きこもってから、かれこれ一週間が経過した。
突然、
「わたし、引きこもる」
と宣言をしてから ぱたん と扉を閉めて、本当に部屋から出てこない姉に当初困惑したものの、そのうちでてくるであろう、とたかをくくり、放っておいたが、一週間が過ぎてしまった。
ときおり、何がしかの物音が聞こえるあたり、部屋の中にいるのではあろうが、姿をまったく見ていない。
両親は共働きであるから、誰もいないときにはさすがに部屋の外を出ているであろうか。その痕跡もわからず、両親は両親で「あの子のことだから大丈夫」なんて剣呑なことをぬかしているから、私ばかりがよけいに心配になった。何かあってからでは、遅いのだ。
私は何度も声をかけているけれど、いっこうに返事すらしない。姿も見ていなければ、声すら聞いていないのだ。
「ねえー、お話ししたいなぁ」
甘えた声を出してみたが、結果は空振り。
そんなこんなで二週間が過ぎたころ、さすがにイライラとしてきた。
「ちょっと、ねえ! いるんでしょう? 返事くらいしなさいよ」
強気な言葉で扉を どんどん 叩く。体当たりでもしてやろうか、と考えたが、その前に母に止められた。
「もう、あんたもいい加減にしなさいな」
なんでそんな呑気なんだ! なんで私が怒られるんだ!
と、母の言葉に苛立ちが増し、強硬策、ではないが、ある作戦に出ることにした。
あくる日、
「行ってきます」
と、家を出たふりをして玄関を開けて、ただ閉めた。今日は私が一番遅いのだ。
そうしてリビングに忍び足で戻り、ソファの影に隠れる。
しばらくして ぱたん 扉の閉まる音が聞こえた。しめしめ、と思いながら、息を殺し、隙を窺う。
食事か、トイレか、お風呂か、それとものびのびリビングで過ごすのか。
そんなことを考えているうちに、静かな足音がリビングには入りこむのを感じた。その静けさに違和感があったものの、私は勢いよく飛び出した。
「ねえ……」
と、言葉が詰まる。動きも止まる。目をまん丸として突っ立っている自分は後になって想像できた。
そこに姉はいなかった。
ただ、猫が一匹、いるだけであった。
頭の中が ぐるぐる と回転し、何が何だかわからない。
「あら、ついに見つかってしまったわね」
と、そのとき、久しぶりに聞こえた姉の声であったが、どこにいるのかはまるでわからない。
「仕方ないわね……」
その言葉と共に目の前が急に暗くなり、意識がもうろうとする。ばた と身体が床に投げ出されたのがわかり、けれど何もできない。そう し て ……
目が覚めたとき、姉がなぜ、引きこもることに決めたのか、身をもって理解することが、できたのだ。
きっと、つながっている。