無人駅にて
――耳を澄ませずともそっと流れこんでくる旋律に心を傾けて、そのまま眠りへと誘われそうになる。こんなにも音に溢れているというのに、静けさを感じるのはなぜだろう。都会の、あの、喧騒とは違う。静寂が燃えているような、美しさがある。
ここもかつては喧雑とした空気で溢れていたのだろう。今や木々に囲まれ、自然に飲まれたこの場所は、過ぎ去りし記憶を有しているのだろうか。
あぁ、いけない。また、夢へと連れて行かれる。多くの人が往来し、物資が運ばれ、活気に満ちたその景色が、見える。
私はここで待っている。ただ、待っている。誰を、あなたを。他に、何もいらない。
風がゆれ動く。穴の開いた天井から、木漏れ日がさらさらと輝いては、私の体を透かせて、ベンチに届く。あぁ、行けない――。
そっと流れる鼓動に耳を傾けて、眠りへと誘われそうになる。
私はただ待っている。誰を、あなたを。悠遠のときを待っている。いつか、この駅まで、来てくれることを。
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