知られなくとも存在する、知られないならいいものなのか?
さぁ、いまだ。
と心の中で言いつつも、何もしない。何もしないで、見送ることもなく、通り過ぎゆく影を視界で捉える。
そうして再び私の心に問いかけるのは、本当にそれがしたかったのか? ということだ。
私はふいに、何と言うこともなく、そうしたくなる自分を想像し、絵が見える。
もちろん、実際にそんなことしたこともないし、これからもないだろう。
ただそのイメージが湧き起こり、疑問を心に落としてもやもやが募る。私には、どうしようもない。
それがいつからだろうか、というのも、正確には覚えていない。
あぁ、まただ。
つかつか 歩いている人の足を引っかけて、転ばせる絵が見える。今私がさっと足を伸ばせばきっと、それに引っかかって転ぶだろう。
けれど、そんなことする気もないし、することもない。ただただイメージだけが脳裏に浮かぶ。
これはいったい、どうしたことなのだろう。
どんな、暗示があるのだろう。
足を引っかかるだけではない。誰かの頭を叩くイメージ、坂道で車椅子のグリップから手を離してしまうイメージ、大声で怒鳴るイメージ、さまざまなイメージがふいに訪れる。
そんなことしたいなんて思わない。
あぁ、何度。何度、同じことを考えているのだろう。
私は、そんな人間なのだろうか? そんなことをしたい、と心の奥底では思っているような、存在なのだろうか。
奥深くに眠る願望が溢れ出てきてしまうのだろうか。
そんな! そんな、存在だなんて!
もしそうだとしたら、私は何て嫌な人間なのだろう。卑しい人間なのだろう。
さぁ、いまだ。
あぁ、まただ。
私が仮にそうだとしても、それが表に現れることはない。私がそんな人間だと、誰がわかるだろう。
けれど、私という存在は確かにそれを知っている。私という存在はそれを知ってしまっている。
それ以上に、必要なことはあるのだろうか。
私はそのイメージに苛まれながら、誰からもそれを悟られることなくこれからも生きていくのだろう。
私がそんな存在だと知られることもなく、かかわりを持ってくれるだろう。
それを曝け出す? 隠す?
あぁ、私は何て卑しいのだろう。そんなこと、決められるわけもない。
何にも決められず、持て余している。
誰にも知られることのないこの闇を、どうすればいい。私は、まっとうに生きていると、言えるのだろうか。
さぁ、いまだ。
あぁ、まただ。
あぁ……どうすればいい。