そらみみ
後ろを振り返ると、そこには誰もいなかった。
思わず首をかしげ、左右を見回し、再び歩き出す。これで何度目だろう。
夕暮れは微かな風と共に闇を連れ、ぼんやりとした気配を漂わせていた。辺りには、誰もいない。
歩行に合わせて鼓動が速まる。風が頬に触れる。なだらかな感触が誰かの指のようにも思えた。
ふと足取りが速くなっていたことに気がつき、歩みを止める。落ちついて、深呼吸。鼓動は未だ速い。
勢いよく、後ろを見る。やはり、誰もいない。
もう一度大きく深呼吸して、足を踏み出す。草の柔らかな感触が誰かを踏みつけているようにも思えた。そのとき
私は走り出していた。耳元がまだぞわぞわする。
言い知れない心地が振動し、振り返ることも立ち止まることもできない。ただただ、何かを振り切るように走る、走る。それが何かもわからないまま。
家の近くまで来る。夕暮れの曖昧な空模様も、夜の暗さが浮き立っていた。
「どうしたの?」
ひっ、と振り返ると、そこにはちゃんと妹がいた。怪訝そうな表情で私を見ると、ほら入ろう、と玄関を開けた。
私はようやくほっとして、玄関に向かう。と、耳元にまた囁く声が、より鮮明に聞こえたような、気がした。
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