傷
傷を見て 傷ついて
傷を見て 傷ついて
その傷が 何とも知らずに
勝手に 自分で勝手に 傷ついて
私は、あなたのその傷を見るたびに、何でだろう。嫌な気持ちになってしまうし、いつの間にか自分も傷ついていることを自覚してしまう。
あなたは傷を隠そうともしない。
白い目で見られたり、通りゆく人から振り返られたり、そんなことは日常茶飯事。
気にはならないの? そんなことを、聞いてみたこともあった気がする。けれど、その答えは覚えていない。
同情もされたであろう。えらく質問もされたであろう。まるで自分が傷ついたみたいに、怒りが、憎しみが、悲しみが、空しさが、あらゆる感情が湧いて、勝手に盛り上がる。そんな光景を、いくらでも見てきたであろう。
あなたはそれでも素知らぬふうに、相手の期待する言葉なんて一切言わずに、凛としている。その姿にまたもや勝手に憤怒して、何であなたのことをこんなに思ってるのにそんな態度なの? だなんて、傍にいて、何度目にしたことであろう。
けれど、私もそんな人たちの仲間入り。しょせん、私も一緒。ただ、何も、言わないだけ。
何も言わないだけで、何も聞かずに、その傷を見て、勝手に自分が傷ついている。
その気持ちは、今でも変わらない。
「なにしてんの? ほら、行くよ」
それでもなお、手を伸ばして、私の手を取ってくれる、あなた。
私は傷だらけのあなたの手を握って、そのぬくもりに触れる。触れる。あなたの、ぬくもりに。
傷だ何だと感じさせない、熱を帯びるあなたの体温をこの手に感じ取り、鼓動が共鳴するかのよう。
その傷は あなたのもの
あなた だけのもの
それを人に 誰にも とやかく言われる筋合いのないもの
それを知っている。それを知ってなお、私は、やっぱり、自分勝手に傷つく。
だから、何も言わない。
だから、何も聞かない。
あなたの傷も、私の傷も、自分だけのもの。
それでもこうして、時間を共有し、体温を感じ、鼓動を共鳴させ、一緒に生きている。
「うん、行こう」
いつかその傷がすべてを蝕み、その傷に、飲みこまれてしまうまで。
傍で、あなたの傷を、見守ろう。
それが、私のできる、贖罪。
あなたの手を握りしめ、あなたは私の手を握りしめ、目の前の道を、ただ、歩いた。