見出し画像

ダイバーシティ/インクルージョンを部活動で『体験』する

こんにちは、NASEF(North America Scholastic eSports Federation/北米教育eスポーツ連盟、以下NASEF)日本支部です。

この記事で初めてNASEFという団体を耳にしたという方は、はじめまして。自己紹介はこちらにまとめてあります!

耳にするといえば…最近は多様性、ダイバーシティ(Diversity;お台場のショッピングモールではありません)、インクルージョン(Inclusion)、などの単語を耳にする機会が少しずつ増えているように感じているのは筆者だけでしょうか?

英語圏のゲーム関連企業では「より良いゲームを作るため」、日本国内の外資系企業では「誰もが活躍できる環境を目指して」などの言葉とともに使われる事が多いダイバーシティインクルージョン(セットで語られることが多いため、頭文字を取ってD&Iと呼ばれたりもします)ですが、両単語が頻出するようになった背景にはそれなりの経緯があるため、ニュアンスまで含めて理解するのは難しいものです。

そこで今回は、この両単語を説明しつつ、eスポーツ部活動に組み込んでいく方法を提案してみたいと思います。前置きが長くなりましたが、早速スタートです。

ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)?

まずはそれぞれの日本語訳を紹介してみましょう。

■ダイバーシティ:直訳は多様性。「相異なる要素を有する、もしくはそれから構成される状態」(Wikipediaより)。転じて(コミュニティにおける文脈では)、性別、人種、信条をはじめ、文化や価値観などその他個人が持つ属性が多様であること。

■インクルージョン:厚生省では「包摂」と表記(リンク先PDF)。「一人ひとり異なる存在として受け入れられ全体を構成する大切な一人としてその違いが活かされること」(特定非営利団体GEWEL紹介より引用)。多くの場合「社会的包摂」か「包摂共生」と同義。

しかし、ダイバーシティとインクルージョンってかなりかなりの部分で意味がかぶっていますよね。ではなぜ、この微妙に違う単語が併記されるようになったのでしょう?その歴史を紐解くのは専門書の役割ですから、ここでは大枠のみを示してみます。

先に認知度を高めた概念はダイバーシティのほうです。ダイバーシティ=多様性とは「コミュニティが様々な属性を持つ個人で構成されること」を目指しています。逆に言えば、「そういう個人が集まってさえしていれば、すべてのメンバーが有機的に、心理的安全性を感じながら、能力を最大限に発揮できているか?」は評価の枠外にあるということでもあります。

ものすごく乱暴にカツカレーで喩えると、ダイバーシティがある”だけ”では、「トンカツとカレーとごはんが存在していれば一緒に食べる必要がない」わけです。せっかくのカツカレーなのに!

せっかく多様性が確保されても、それぞれが尊重されず別々に活動していては意味が薄れてしまいます。そうではなく、違いがある者同士が一緒に動くからこそより優れた成果が出せるという考え方が「インクルージョン」の根底にあります。

カツカレー的に言えば、インクルージョン=社会的包摂とは「トンカツとカレーとごはんは一緒に食べることで真価を発揮するよということです。

ダイバーシティ=多様性が確保され(カツカレーの具材が全て揃う)、インクルージョン=社会的包摂の達成により各自の強みが相乗効果を発揮される(個別に食べていては味わえなかったカツカレーのハーモニーが実現される)と。

画像1

この喩えだとあまりにも自明で、そんな事は見れば分かると言われそうですが、かつては「人種のるつぼ」と言われていたアメリカ合衆国が、近年は「人種のサラダボウル」(リンク先Wikipedia)と呼ばれるようになったことからも、人間のコミュニティでインクルージョンを実現するには意識的な取り組みが必要であることが感じられるのではないでしょうか(別にカツカレーにサラダを付けようという話ではありません)。

日本の学生に関係ある?

とはいえ、これらは基本的に輸入された言葉であり概念です。若者が日本で生活することを前提とした場合、彼らが「舶来品」に慣れ親しむ必要はあるのでしょうか?

これについては「正しい/正しくない」の2軸で考えるのではなく、日本の労働人口の推移から来る必然性という面から考える必要があるでしょう。

日本の出生率は下がり続けているため、将来的には日本で生まれ育った人材だけでは労働力不足に陥る(みずほ総合研究所、2017年、PDF)ことは避けられません。これは現在の若者が働く未来の日本において「同じような価値観のメンバーだけで構成された組織」が大幅に減少するか、日本がその労働人口だけでやっていく国になるかのどちらかになるということでもあります。

それならば、海外から招いた人材と共に働く環境(つまり多様性の高い環境)を前提とし、最大限の成果を挙げる武器として「社会的包摂の力」を早い段階で「体験」しておくことは大きな武器になると考えられないでしょうか。

なぜeスポーツ部活動で?

ようやく見出しがNASEFらしくなってきました。ここでeスポーツ部活動の話題を出してくるのはこじつけに見えるかもしれません。しかし私は、D&Iの概念を講義で身につけるのは道徳の授業で価値観を変えるのと同じくらい難しいと考えます。

授業であっても適切にデザインされたワークショップならば有効でしょうが、そのために枠を用意するよりも課外活動でスタートするほうが現実的でもあるでしょう。

その点、eスポーツはそもそも性別・信条・人種・価値観・障碍などに関係なく取り組める活動なので、D&Iの力を体験する課外活動として(他の部活動と同等またはそれ以上に)適性が高いのではないでしょうか(リモート環境でも活動をできるという点でも2020年的と言えます)。

なおD&I体験はゲームをプレイする部活動でも取り入れられますが、より推進するならば「ゲーム外活動」、たとえば配信、イベント、コンテンツ制作などのほうがより濃密な活動になるでしょう。

どうやって?

北アメリカのNASEFでは、クラブメンバーにAnykey.orgというD&Iの啓発活動グループが提唱する「GLHF誓約」(同ページ「What you can do」以下)への同意を推奨しています。

誓約の内容を日本語訳すると以下のようになります。

1. 勝敗にかかわらず楽しむ
2. オンライン上のプレイヤーもリアルな人間であることを忘れない
3. 自らの言動が影響力を持つことを自覚する
4. 一切のヘイトスピーチ、ハラスメント、悪意ある行動、脅迫を黙認しない
5. ルール、対戦相手、チームメイトに敬意を払い、誠実な姿勢を保つ
6. 自らの言動を指摘された時は立ち止まり、他者に耳を傾け、振り返る
7. 他者が正直な意見を口にしたら、それが自らの意見と異なっても尊重する

D&Iを実践する活動として、部で上記誓約の内容をたたき台とし、メンバー間で議論し、加筆修正してみてはいかがでしょうか。

もちろん作るだけで放置してしまえば形骸化するのみなので、全員の遵守を徹底し、適宜改訂し、運営していく必要はあるでしょう。しかしそれが実現できれば、その先には大きな教育的価値が出てくるはずです。

スキルに関係なく、誰がどのような価値観を持っていても互いを尊重し、共に活動できる。そんな環境で活動を続けることは――仮に部員の「属性」がかなり似通った環境であっても――後々の人生にとって大きな財産となるでしょう。「他者を尊重できる」、それだけで視野は広がるものですから。

もちろんこれ以外にも様々な施策が考えられますから、アイデアがあればぜひ試し、そして他の人たちと共有してみてください。#NASEF日本 のハッシュタグを付けていただければ私たちも微力ながら拡散のお手伝いをさせていただきます。

以上、今回はダイバーシティとインクルーシブネスについてのお話でした。

おわりに

今後もNASEF日本支部では教育関係者の皆様に私たちだからこそ出せるアイデアを提供できればと考えています。特に興味がある分野などありましたらぜひお知らせください。確約はできませんが、可能な限りフォローしていきたいと考えています。

日本支部窓口のお問い合わせ先は以下のとおりです。取材や相談などお気軽にご連絡ください。

【お問い合わせ窓口】
公式ウェブサイト(英語): https://www.esportsfed.org/ 
日本支部窓口(日本語/英語): hnaito@esportsfed.org
Twitter:@nasef_japan

北米教育eスポーツ連盟(略称NASEF)は、教育を受け、想像力に富み共感力のある人材を育て、すべての生徒が社会におけるゲームチェンジャー(改革者)になるための知識やスキルを身に着けるために取り組む教育団体です。