新しい生活様式下での教育をゲームで豊かに
こんにちは、NASEF(North America Scholastic Federation/北米教育eスポーツ連盟、以下NASEF)日本支部です。前回の投稿以来COVID19により世界は大きく様変わりし、「The New Normal」(新しい生活様式)という言葉を耳にする機会も多くなりました。
これを受け、日本でも教育関係機関や美術/博物館などによるコンテンツ無料開放や、コミック含む書籍や映像作品無料公開のニュースをご覧になった方も多かったのではないでしょうか。
世界でも屈指の被害を被った北米においても同様の動きは見られましたが、その一環としてNASEFでも取り組みを行ってきました(もちろん他にも様々な団体が様々な施策を打っています)。そこで今回はNASEFが取り組んだ企画、それも『マインクラフト』という間口の広いタイトルを用いたeスポーツではない「自宅待機下でのゲーミング活用事例」を紹介してみたいと思います。
外出自粛と教育機会
今回は世界中の様々な国で休校措置が取られ、学生・教育関係者にとっては大変な時期が続きました(あるいは続いています)。自習やオンライン学習サービス、ビデオ通話サービスを用いた遠隔授業など従来の授業を代替する様々な施策も行われています。
一方で、国語や数学、英語などのような「教科」というくくりには収まらない総合学習に近い取り組みも同時に立ち上がってきました。博物館や美術館などが提供しているオンラインコンテンツはそのような方向性でしょう。これらに共通するのは「興味を惹かれたから、面白そうだから触ってみたい」という気持ちを活用している点で、これは以前お話しした「Interest-driven learning(直訳的には興味駆動学習、噛み砕くと関心分野だからこそ生じる能動的な姿勢が生み出す学び)」につながるものがあると思います。
今回紹介するNASEFの取り組みは、それを『マインクラフト』という馴染み深いゲームで行っています。もちろんご存知の通り『マインクラフト』はeスポーツを念頭に置いたタイトルではありません。つまり今回はeスポーツではなく「ゲーミング x 興味駆動学習」の取り組みと呼べるでしょう。
自宅待機期間にゲームプレイ時間は伸びた
さて世界的なトレンドとして、今回のCOVID19で外出自粛/自宅待機でゲームプレイ時間増加と売上増加の傾向が確認されていますが、これは日本についても同様のようでゲームのプレイ時間が伸びているという記事が出ています。
感染拡大が急速だったためまだ十分なデータは出揃っていないものの、外出自粛がゲームプレイ時間の増加につながる傾向はおそらく今後も続くことになるでしょう。そして「COVID19との戦いは長期的なものになる」のを前提とするなら、これを機会と捉えて総合教育、あるいは興味駆動学習の機会とすること、そしてその知見をボーダーレスに共有することが重要になってくるのではないでしょうか。
以下ではこのような状況を踏まえ、COVID-19をテーマとした『マインクラフト』の取り組みを紹介していきます。今回紹介するのは、小学3年生~高校3年生を対象に『マインクラフト』を利用したものです。
ちなみにこちらはNASEF公式サイト※の [Learning(学ぶ)] タブ >「Minecraft COVID-19 Design challenges(『マインクラフト』 COVID-19 デザインチャレンジ)」に掲載されています。
※なおNASEFの公式ページ(英語)ではクラブ活動以外のコンテンツすべてがログイン不要で公開されていますので、興味のある方はぜひご覧になってみてください。たとえば [CLUBS] タブでは「行動規範」や後述する「Beyond the Game Challenges(ゲーム外課題)」、[Learning] タブではカリキュラムやワークショップ、キャリア紹介、[LEAGUE] タブでは学生リーグの概要から模擬戦相手の検索機能、[VIDEOS] タブでは各種チャンネルへのリンク、[RESOURCES] タブでは保護者向け説明から健全なゲーミングに関する記事などが公開されています。
取組の概要
この取り組みでは、『マインクラフト』内で実現可能な課題を「チャレンジ」と呼称し、各参加者は自分なりに解釈してチャレンジをクリアし、動画を提出することで参加します。以下、概要を箇条書きでまとめてみます。
取組概要:
● 対象者:米国在住の小学3年生~高校3年生
● 優秀者にはHyperXヘッドセットなどの賞品あり
● 3月第4週(自宅待機が加速した時期)から「チャレンジ」を公開
● 各参加者はガイドラインに沿って『マインクラフト』内でチャレンジに取り組む
● 作成したコンテンツを動画化し、教育向け動画投稿プラットフォーム「Flipgrid 」に提出
● 提出後、指定タグ #MinecraftCOVID19 を付けてTwitterで共有
チャレンジ内容(著者による日本語仮訳):
● 外出自粛?それなら外に出たくなくなるような理想の家を作ってみよう
● COVID19って何だろう?実際に作って特徴を学んでみよう
● 医療施設の重要さを思い知らされたから、未来の医療施設を考えてみよう
● 感染防止策が錯綜したから、有益な情報を提供する博物館/図書館を作ってみよう
● 手洗いは大切!隠された洗面所を探してたどり着くステージを作ってみよう
● COVID19対策になるルーブ・ゴールドバーグ・マシン(ピタゴラスイッチ的な装置)を作ってみよう
たとえばチャレンジ2なら、小学3年生であれば形状を再現することで「どのような存在なのか」を把握することができ、高校3年生であればその性質まで再現することも可能と、各自が自分の限界を目指して取り組めるようになっています。具体的な提出作品は今もTwitter上で指定タグ #MinecraftCOVID19 をご覧いただけますので、興味のある方はぜひご覧になってみてください。
原型は従来から実施していた「Beyond the Game Challenge 」
こちらのチャレンジによって得られるのは、COVID19に関する興味駆動学習の機会、そして得た知識を自ら再構築することによる知識定着です。国語や数学、英語などのような「教科」ではないにせよ、補助学習としては極めて効果が高いのではないでしょうか。
ところでこの『マインクラフト』チャレンジ、実はNASEFサイトの [CLUBS] タブ >「Beyond the game challenge (ゲーム外課題)」で続けられてきた活動が原型となっています。これはeスポーツ分野で「競技選手」以外の様々な分野 (配信や実況、動画編集など) における才能を育むための取り組みで、参加者は自分がプレイするゲームの配信、動画編集、実況といったeスポーツ業界活動を通じて将来のキャリア形成につながる知識を吸収し、実経験を積み、業界のプロや大学生リーダーのメンタリングを受けられるようになっています。
今回はそれをより幅広い年齢層向けに展開できるようテーマを変えて実施したものと言えるでしょう。
さて、この『マインクラフト』チャレンジ小学生から高校生までを対象にしたものでしたが、日本の学校で実際に進めていくとしたらどこが入口になるでしょうか…?以下では『マインクラフト』の取り組みを離れ、日本の教育現場での応用について考えてみたいと思います。
日本で応用するならクラブ活動か
COVID-19の第二波、第三波到来を考えると、教育分野でも「新しい生活様式」を前提とした準備を進めていく必要があるのは、様々な専門家の意見を見る限りまず間違いないでしょう。そういった意味で、逆に今は新しい教育の形を模索していくタイミングとしてはチャンスなのかもしれません。
もちろん先述の「Beyond the game challenge (ゲーム外課題)」にしても、「NASEFの活動は北米でeスポーツがキャリアたりえるという前提のもとに進められているから日本では参考にならない」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかしeスポーツという観点から見れば、たとえば既存のクラブ活動の一部、あるいはSTEM教育の補助的な活動として見てみることは着手点として優れた思索になり得るのではないか?とも私たちは考えています。
そう考える根拠のひとつは、米国で多くの大学がeスポーツ関連の取り組みを強化している理由にあります。
実は米国大学がeスポーツに力を入れている主要な理由は大学リーグで好成績を残すためだけではなく、別のところにあるのです。
たとえば過去記事でも記載しましたが、ゲームには「問題解決スキルを向上させる効果がある」、「技術リテラシーとの強い関連性がある」、「数学の成績と関連がある」といったことを示す研究論文がありますが、これを補足するように、イリノイ・ウェズリアン大学 (慶應義塾大学の海外協定校でもあります) の学事課バイスプレジデントKarla Carney-Hall氏やユタ大学eスポーツディレクターのA.J. Dimick氏もこちらの記事で次のように述べています(引用部翻訳および強調は著者による)。
Karla Carney-Hall氏は、eスポーツは (単純に入学者数を増やすだけでなく) より優れた学生を獲得する上でも役立っていると語ります。「そういう生徒は競技的にプレイできる環境を求めているんです。もちろんどの大学でもカジュアルに集まって遊ぶことは可能でしょう。でも本気でやりたい、腕前に正当な評価を得たいと考えているプレイヤーは競技的 (訳注: 真剣勝負として) にプレイできる環境を求めます。大学チームの環境整備、eスポーツを通じた生徒獲得とはそのための手段なんです」
ユタ大学のA.J Dimick氏も同様の効果について述べています。「大学が積極的に (eスポーツに) 関与していく理由は、我々が探している生徒…つまり高成績 (高いGPA) を備えたSTEM学生に対して競技的eスポーツが大きなアピールになるからなんです」
日本の高等教育機関でeスポーツを独立した教科として採用することは難しいかもしれません。しかし上記のような話を踏まえた上で取り組むのであれば、第一歩としてクラブ活動としてスタートするのは有効な選択肢になりうるのではないでしょうか。
もちろん「新しい生活様式」でクラブ活動をするとしても、三密を避ける必要はあります。その点についても、先述の記事では「リモート環境での適切なコ―チングや管理」についてこのような記述もありました(引用部翻訳および強調は同じく著者による)。
eスポーツチームを遠隔管理するには
eスポーツチームであっても、通常は同じ場所に集まってプレイするのが一般的でした。最善のプレイをするには専用スペース、高性能PC、太い回線が必要であるからです。
「他方、学校のeスポーツチームでは「バーチャル専用スペース」の活用が長らく使われてきました。Twitch や Discord を用いて腕前を磨き、チームコミュニケーションを取ってきたのです」とCDW学習環境アドバイザー Joe McAllister氏は述べます。
「どちらのサービスもチームメンバーのセキュリティーを維持した上で、ハンドルネームを使い、指定したメンバーだけを参加させることが可能です。」
「管理面でも、コーチは各プレイヤーがバラバラな場所で異なるゲームを遊んでいても状況を把握できます。たとえばユーザーが特定ゲーム専用の部屋を作り、コーチは各ゲームの活動を簡単に見にいってフィードバックを提供することができるわけです」
全文はこちら (英語)
終わりに
以上、自宅からできる『マインクラフト』の活用事例、そして高等教育機関におけるeスポーツ活用案のお話でした。
今後もNASEF(North America Scholastic Federation/北米教育eスポーツ連盟、以下NASEF)日本支部では「新しい生活様式」に向けた対策を練っている教育関係者の皆様に何らかのアイデアを提供できればと考えています。また、特に興味がある分野などありましたらお知らせください。確約はできませんが、可能な限りフォローしていきたいと考えています。
日本支部窓口のお問い合わせ先は以下のとおりです。取材や相談などお気軽にご連絡ください。
【お問い合わせ窓口】
公式ウェブサイト(英語): https://www.esportsfed.org/
日本支部窓口(日本語/英語): hnaito@esportsfed.org
Twitter:@nasef_japan
北米教育eスポーツ連盟(略称NASEF)は、教育を受け、想像力に富み共感力のある人材を育て、すべての生徒が社会におけるゲームチェンジャー(改革者)になるための知識やスキルを身に着けるために取り組む教育団体です。