ポッケからするめいか28
セルフカット。
しょうさんは20年前から自分の髪は自分でカットしている。
それ以前は近所の馴染みの床屋一筋で、
定期的に通っていたが、
髪が薄くなってきたことや
肌が日光アレルギーで荒れやすくなってからは、
恥ずかしさもあり徐々に通うことをやめてしまった。
しょうさんも然り。
髪は年々薄くなっていき、
現在は完全なる白髪頭。
前から禿げるタイプで、
中年の頃から薄さと白髪が目立ち始めたが、
いわゆる、
サラリーマンによく見られるような
七三分けはしなかった。
ハゲ隠しや染色は一切したことがない。
しかし、育毛剤は洗面所の棚にあったので、
加齢への抗いはひそかにあったのかもしれない。
けれど育毛剤も熱心に使っていたわけでもなく、
半分は気休めのように置かれていたように思う。
“取り繕う”ことはしなかったが、
うっすら気にしていたのかもしれない。
短気ですぐ切れることはあっても、
自分の悩みや不安は決して周りに吐露しない性格なので、
気にするそぶりは見せたことはなかったが、
60代に差し掛かった頃には、
もっと薄くなってきたら、
全部剃って坊主にすっか!
とは言っていた。
しょうさんはたまに言う。
“気にしたってしゃんめ”
(しょうがない)
日頃からあまりクヨクヨ悩まない性格だ。
セルフカットはいつもバリカン。
2、3週間に一度、
必ず夕方、入浴前に行う。
カットするときは決まってブルーのピステを着て、
洗面台に新聞紙を敷く。
しょうさん家の洗面は三面鏡なので、
後頭部もよく見えてカットしやすい。
たまに孫が泊まりにくると、
孫にバリカンを預けてカットさせることもあった。
孫に託せてしまうほど、
支障のない毛量になっていた。
申し訳ないが、
ここ数年は、
どこカットしたの?
というくらい伸びても切っても
全くわからない。
洗面所に散らばった4,5ミリの白髪の束が、
今日カットしたしるし。