五十首連作「三秒したらパサージュ来たる」

三秒したらパサージュ来たる


イーゼルに立て掛けられたワタシにはどのようなものが描かれるの

「君が着ると可愛い」じゃなくて「君に似合う」で良いじゃん普通にさ

あなたの趣味嗜好を押し付けずお伺いを立てるようにしなさい

服と化粧をあなた好みにしないとダメって誰が決めたの?言え

あなたには分からなくていい考えるな悩むな泣くな 消えないで

プレゼントは要りませんからアナタのその話しを聞かせてください

さようならピンクのリップを落としてオレンジのルージュをハグする

唇に触れた指先から心が沸騰するマニキュアをされ

すずかけの実をいつまで見上げることができるかなと横にいる君

池の鯉エサが欲しくて水面から口伸ばす、ぽうぉんぽうぉん、と

公園の茂みの横の葉の裏にテントウムシは停まって休む

砂場で大きなお山を作り始める初めての共同作業

遊び泣き疲れ眠りし幼児(おさなご)が吹きし綿毛は虚空へ消ゆゆ

蒲公英を取りし幼児(おさなご)陽に掲げ忽ち黄金(こがね)のメダルとなり

頑張ってブランコを漕いだ後の手をくんくんすると鉄臭いね

うちにくる鳥の名前を知るだけで良いです後はどうぞ静かに

ベランダに出ると烏雀鳩四十雀の鳴き声が聞こえる

青嵐若緑色の波間に浮かび沈み浮かぶ鯉の群れ

早朝の赤信号我先と雀の羽ばたきが耳を掠める

大通りの片隅で瞼を閉じ三秒したらパサージュ来たる

葉桜になるとポツンと世界から取り残されたようなジェラシー

癇癪玉を噛むぐらいの出来事に遭遇する人はあっち

有象無象の納骨堂を大衆は抱え込んで打ちのめされて

貫禄と威厳をヒールで踏み締めて蜂の巣作り女王と化す

雑踏に佇む被害者と加害者の間に張り付いたあたし

あたしの代わりが効く歯車は要りませんあたし以外は贋者

あたしだけ雨と風が強いんで傘持ってかれ片手が痛い

騒ぐならば自分自身の顔をよくよくまさぐってからにしてください

低俗か否かなんぞはアナタ達ではなくあたしが決めるんです

「愛想無し、作り笑いも無し」お前が人に優しくしてから言え

無いものをむんにゃりさせることで目蓋の濃淡と明度を知った

何かミスったら天上より大き過ぎる赤ペンで直される人

縞馬を二頭以上見比べて縞の流れが違う縞模様

決めました半径イチメートル以内は特権で無法地帯だ

名も無き顔も無き声も無き我に存在証明は果たせない

枯葉と同じように見慣れた風景からいるけどいない存在

なぞるように非在の匣を語らずに髭を生やしてかく語りき

カッコつけ回し蹴りしてそのまんま飛んでいって無くした半身

機能には限界があり結局は運次第ですからときめけよ

朝顔を煎じて飲むという夢をみてこれがあの吉凶ですね

グッと踏ん張り遠回しではなくて最短距離で吠えるのが良い

神棚へ等間隔に花髑髏を並べている三人姉妹

死に様をしっかりみてて人を見て建物を視て風景を観て

「列外へ」その指示がありましたらば仰せのままに天に召しませ

今どこにいるのか把握し兼ねます発光してよねトランジスタ

不機嫌なメリケンサック投げ出してホモ・サピエンス?ネアンデルタール?

定刻に彼岸花だけ乱れずに幾何学模様に朽ち果てゆく

春通り過ぎし足跡雨水が溜まりペンペン草咲き誇る

牧神の雄叫び心地よく秘密めいたところへ辿り着けない

きみの名前が分かった思い残すことは無いよグレイビーボート


※第六十七回角川短歌賞応募作(予選落選)

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