5/16雑記 ~創るだけでは始まらない。あなたの心まで「届く」マンガ2選~
なーんとなく、美大や芸大を扱ったマンガを最近よく読んでいるな、と思ったけれど、数えてみたら2つか3つ、なんとことはよくあることで。
それらはそれぞれ違ったアプローチで創作の姿勢、創作のリアルに迫ろうとしていて、そして、その方向性は時代とともに変遷していくものなのだ。
今回は、「プロデュース」「ディレクション」をテーマに、創作の今を描くマンガを2つ紹介したい。
まずは一つ目。
・『星明かりグラフィクス』山本和音/KADOKAWA/エンターブレイン/ハルタコミックス
『星明かりグラフィクス』は埼玉のとある芸大を舞台にしたバディものだ。
実に芸大らしい奇人変人たちを描きながらも、そうした環境での内省的な創作の苦悩では終わらない、戦略的に創作に挑んでいく様が熱く展開される。
「天才だがコミュ障」の吉持星、「凡才だがリア充」の園部明里。
美大を「才能のある人間とコネをつくる場所」と言い切ってしまえる園部が、潔癖人間嫌いの問題児・吉持の才能に光明を見出し、なんとか実践的な表現の場へとコネクトさせようと奔走していくのである。
吉持の所属する「デザイン学科」は、学生生活の間に生み出した作品が名刺代わりとなる、「プロになれるかどうか」が如実に現れる学科だ。
「デザインすること」そのものに自身の快楽を求めている、吉持のような「デザインの鬼」は、放っておいても「いずれ」誰かがその才能を発見して持ち上げてくれるかもしれない。
私たちはどこかで、ある意味それが「純粋な才能のあり方」だと信仰してしまっていることもあるかもしれない。
でも、違うのだ。ありとあらゆる才能は、届けられるべくして届くべきなのだ。
俯瞰の視点を持った園部の、クレバーな導線が心地よく、結果、叩き付けられる吉持の才能にカタルシスを覚えることができる。
こういう「才能」を「正しい位置」へ誘おうとするポジションは、こと今の時代において、より重要になってきていると感じている。
(2巻 P30より 1巻のコピー「美大ってのは仲良しクラブじゃないんだよ。」がより明確になるシーン)
最近発売された2巻に収録されている「学祭展示バトル編」もその辺りの魅力が存分に発揮されているから必見だ。
そして2つ目。
・『映像研には手を出すな!』大童澄瞳/小学館/ビッグコミックス
更新が止まってしまっている弊ラジオ企画「マンガ図書館」でも紹介した作品だが、これも情熱120%で創作にぶつかっていくだけの話ではない。
主人公たちは女子高生で、学校での活動としてアニメ制作を試みる。創作の立ち位置としては、よりプリミティブな衝動に身を任せることのできる時期である。
「プロになれるかどうか」という壁を、「映像研を学校に認めさせる」「予算を得る」に置き換えて、高校生のリアルの中で試行錯誤する必然があるのが上手い。
『映像研には手を出すな!』において、『星明かりグラフィクス』の園部にあたるキャラクターが、金森さやかだ。
園部は曲りなりにも芸大に進んでいるのだから、多少なり同じ領域を共有しているけれど、金森の場合は、アニメ制作それ自体にはほとんど興味がない。それ故に、「金儲け」という視点でその他の部員・浅草みどりや水崎ツバメの才能を冷静に計り、暴走しがちな創作の徒たちの手綱を握ることができるのだ。
そしてこれは、チーム内での「役割分担」の重要性を示してもいる。各々が得意な分野を担い、互いに足りない部分をカバーする。
だからこそ、打算を超えた先にある絆が感じられるのであり、創作の喜びをこちらも感じ取ることができるのだ。
(1巻P156より これから生み出されるものへのワクワクが止まらない)
「創り」「届ける」、そんな、創作の瑞々しさとリアルの狭間に生まれる「関係性」の熱さにぜひ触れてほしい。