【小説】奥穂高岳に登る 2.上高地から涸沢へ その2
朝ごはんにとおにぎりを持ってきていた。
バスの揺れのせいか、あまり食欲がなかったので、少し進んでからにしようということにした。
「じゃあ、これ」
俊がチョコチップの入ったクッキーの小袋を差し出す。少しはお腹に入れておけということのようだ。
クッキーをほおばる私の横で、俊はポリタンクに水を汲んでいた。2リットル入るものだが。このほかに水分は500mlペットボトルのお茶を各自1つずつ持っている。
今回の行程では奥穂高岳アタックを除けば水は無料で汲めるとのことなので、下からは無理にたくさん持っていかなくてもよいとのこと。
よくわからないが、場所によっては水を汲むにもそれなりにお金がかかるそうだ。
上高地はとても涼しかった。
この夏、日本一の暑さを度々記録した桐生から来たので、よりいっそう涼しく感じるのかもしれない。
川沿いのシラカバ林の道は平坦でとても歩きやすかった。
荷物の多くは俊が持ってくれたので、私の荷物は自分の寝袋と着るもの、あとはごはんくらい。そこまで重くはない。俊はそういうところには気がまわるのだ。
空気も澄んでいて爽やか。何だか楽しくなってきた。高原のハイキング。リゾート気分だ。
1時間くらいで明神館という山小屋というかホテルに着く。
ここで最初の休憩。上高地で食べなかったおにぎりを食べる。歩いて食欲が出たせいか、ただのおにぎりなのにおいしかった。
「いいところでしょ。」
楽しそうな俊。気持ちいいよね、と返しておく。
明神館から同じような平坦な道を歩くと徳澤園という山小屋に着く。
さっきの明神館と比べ、より山小屋らしくなっているが、まだまだリゾートのエリアという感じはあった。
更に1時間進むと横尾に到着する。
谷沿いの開けたら場所にある山小屋で、テント場も広かった。
徳澤園までとはうって変わって、ここからは山だぞ、ハイキングじゃなくて、登山なんだぞという空気になっている。
あぁ、ここからが本番なんだな。そう思って俊のほうを見ると、靴ひもをしばり直したりして気合いを入れているようだった。
それとも久々の北アルプスに血が騒いでいるのだろうか。
そんな空気に飲まれたせいか、私は少しおじけづいていた。
空気もいいし、やっぱりここに泊まってゆっくりしない?
俊にそう言おうか迷った。
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