中之島文楽―歌舞伎と芸能の本場大阪をその痕跡と重ね合わせて見る最初の小さな旅(3)(2023年10月。写真中心)―
大阪歴史博物館でこんなパンフレットを見つけた。
日付を見ると明日と明後日。明日は道頓堀に行く予定の日、明後日は東京に行く予定の日だった。明日も無理すれば行けるだろうが、明後日なら新幹線の時間を少し後ろにずらすだけで良い。そこで明後日の昼の公演を見物することにした。
パンフレットの裏側を見ると、出演者や演目の詳しい情報が出ていた。
『日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら)』は、歌舞伎舞踊『京鹿子娘道成寺』のもとになった道成寺伝説の方を浄瑠璃化したものである。
娘道成寺は象徴的な舞踊で、道成寺の物語の筋をそこから直接辿ることは出来ないが、『日高川入相花王』を見ると我々は道成寺伝説の物語の全体像を舞台を通じて知ることが出来る。
なお、『京鹿子娘道成寺』や道成寺伝説を素材として、物語生成システム関連の研究を我々は行っている。これについては、例えば以下の論文を見てください。
Kawai, M., Ono, J. & Ogata, T. (2021). Prototyping Narrative Representation System Using a Kabuki Dance and Legendary Story for the Narration Function of Robots. Journal of Future Robot Life. 3(2), 147-181. (DOI: 10.3233/FRL-210006).
次の日本語の本の中でもこの研究に触れている。
なお、上の話と直接は関係ないが、同じ所に次のパンフレットがあるのが目に止まった。
ここに出る澤村田之介は、悲劇的な晩年でも知られる歌舞伎界の名女形であり、渡辺保先生の『娘道成寺』という素晴らしい本でも詳しく解説されている。つまり、田之助は、娘道成寺の傑出した踊り手でもあった訳だ。
パンフレットの裏に詳しい説明がある。
今回こちらは見ることが出来なくて残念であった。
さて、新大阪駅から御堂筋線に乗り、今回は梅田の次の心斎橋で降り、地上に出た。大阪の土地勘というものがないので良く分からないが、橋を渡って中之島という島に出たような気がする。
中之島と言えば、前川清が歌う内山田洋とクールファイブの「中の島ブルース」の、あの「なかのしーまブールウウスよー」が反射的に頭の中に浮かぶ年齢であるが、結局中之島が何処なのか、大阪という以外、今まで知らなかったわけだ。
偶然見たパンフレットのお蔭で、大阪中之島に生まれて初めて来ることが出来た。
少し早く来たので、川の畔のベンチに座って、少し書き物などをした。
前はこんな風景であった。
振り返るとこんな建物が見えた。
時間が近付いたのでそこから五分位歩くと、今日の会場の建物が見えた。大阪市の中央公会堂である。
正面が入り口になっている。
ここから中へ入って行く。
建物の入り口(玄関)はこんな感じである。
客席に入ると、こんな見事な情景が待っていた。
上手側の光景。今回自分で席を指定することが出来ず、お任せで二階前の方のほぼ正面の席となったが、もう少し近い横手の座席でも楽しめたかなと思った。しかしそちら側はガラガラなので、詰めないようにしていたようだ。
太い柱を撮ってみる。
シャンデリアを撮ってみた。
すぐ後ろでは上演の撮影が行われていた。
今日の上演では、プロジェクションマッピングが行われていた。基本的に、上演中の人形遣いと人形を大写しにするという単純なものであった。会場が広いため、私が座っていたような後ろの方の席ではそれらの細部が見えにくいので、補助としての役割は果たしていたように思うが、しかし実際の芸を見ることの邪魔をしたのも確かである。純粋に私の意見乃至好みであるが、このようなものはない方が良い。
日高川では、安珍を追い掛けて日高川を渡りながら、清姫が蛇に変わって行く有名な場面が上演された。映像は少々邪魔だったが、芝居は面白かった。
もう一つの『増補大江山』は、大江山の鬼を巡る物語の一つで、美女に化けた鬼が最後にとうとう本性を現わし、四天王の一人源綱(みなもとのつな)と死闘を繰り広げる場面がクライマックスである。
両者とも、物語性が濃く、見世物性もたっぷりある、楽しめる演目であった。
歌舞伎や人形浄瑠璃では通常、終演後演者が舞台に戻って来ることはなく、観客はどんなに拍手をしてきたしても、素気なくそのまま終わりであるが、この中之島文楽では、終わってから、人形遣いや大夫や音楽の皆さんが舞台に立ち、挨拶と写真撮影の時間が設けられた。
大夫や三味線弾きの演台が非常に高い。
もう一枚。
大阪市中央公会堂を出ると、来る時と同じ御堂筋線で新大阪に出、のぞみに乗って東京に向かった。
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