創作叙事詩・解題からエスノグラフィー/Poetic Ethnographyまで:そのあゆみと作品の群れ(抄)
はじめに
創作叙事詩という言葉、ご存知ですか。
ほとんどの方がご存知ないのではないでしょうか。
コトバンクで検索すると、こんな結果です。
ネット/Googleで検索をすると、トップヒットします。
・拙稿(2022)「創作叙事詩とその解題」とは何か:2022.11.23 改訂(Blog)
この創作叙事詩という言葉でGoogle Scholar/論文検索をすると、5番目と6番目にわたくしの作品(論文)がヒットします。
・拙稿(2013)子どもと教師のためのオートエスノグラフィーの可能性
・拙稿(1997)社会科「叙事詩」論序説 : 事実認識と想像力とをつなぐ試み
いずれもわたくしの書いたWeb Siteや論文等がほとんどです。
今、ここで創作叙事詩とは何か、一言でお伝えするならば、あなた/わたくしが学びや暮らし・仕事などで経験したことに、あなた/わたくしのひらめきや想像力を加えて「化学変化」させてできた詩のことです。いわゆる抒情詩とは一旦区別して起きます。また、いわゆる歴史の中の英雄や民族の行ったことを扱った、雄大かつ長編の叙事詩とは異なっています。
創作叙事詩は、その後、原則、自ら書いた解題を付記するようになっていきました。ここでいう解題とは、あなた/わたくしがその創作叙事詩をなぜ、何、どうして書いたのか、可能な限り論理と証拠を持って書くことです。
わたくしが、なぜ、創作叙事詩・解題を研究-実践のテーマに据えてきたのか、ここでは簡単に素描しておきます。
1980年代から1990年代のこと、中学校における社会科(歴史)の実践者だったとき、歴史=暗記科目というラベルを貼られ、歴史嫌いや歴史離れする中学生たちに出会っていきます。テストや課題を出すとき、学んだ/覚えた歴史的事象をトレースするように、教科書や参考書のコピーや要約ではなく、学んだことを自分の言葉で内側から表出する手法を考えていきました。
その一つが、短くも行間に潜む思いや願いが込められる「詩」だったのです。
わたくしが安在清輝の名で自ら「あのホメロスのように」という詩を書き、中学生たちに紹介し、学んだことを詩にする課題を出しました。
すると、社会科が苦手だったある中学生が「それは悲惨な絵だった—殷王の墓—」を書きました。
この経緯や作品については、先に挙げた成田(1997)を参照されるか、昨年書いた成田(2020)『物語「教育」誤訳のままで大丈夫!?-Education のリハビリ、あなたと試みる!-』(キーステージ21みらい新書)のp.136-140をご覧ください。
当初は、「詩」(社会科叙事詩・創作社会詩と呼んでいた)だけだったが、生徒同士で「詩」を読み合ってゆくと、なぜ、そうしてこの詩を書いたのか、聴き合うことが多くなっていきました。そこで、作品とその解題を書いてゆくことになっていきました。
その後、中学校社会科教諭として自ら書いて行くのですが、いわゆる「自由詩」だけではなく「定型詩(短歌や狂歌、俳句や川柳)と解題」、「キーワード&コメント」、「キャッチフレーズと解題」などを創作叙事詩の概念の拡張・深化をめざしていきます。
社会科を越えて「生活指導」の場面でも、中学生たちは「反省文」ではなく、「反省/はんせい歌」を書き、それは関係のない今ここで思いや願いをもとに「詠今/えいこん歌」を書いて行くことになります。さらに、副校長時代(2003年度〜2006年度)には、わたくしは、行事の後の長ったらしい講評に変えて「講評歌」を詠みあげて終わるようになったりしました。
この一連の具体的な作品はこちらをご覧ください。
副校長時代(2003年度-2006年度)には、のちの「次世代型学校マネジメント理論:水の思想・川の組織論」(成田,2012)の研究-実践につながる創作叙事詩「川下にいる者」(2004)を書いていきます。
そして、2007年年度以降、フィールドを中学校から大学(東京学芸大学)に移し、研究-実践の中で創作活動とその理論的背景の研究を行なっていきました。
その一つの「果実と種子」(成果と課題)が、先に挙げた拙稿(2013)子どもと教師のためのオートエスノグラフィーの可能性—「創作叙事詩・解題」を書く意味—(『ホリスティック教育研究』第16号, p.1-16)を書きました。
その後も、学校というフィールドから創成されてきた「創作叙事詩・解題」を、「エスノグラフィー」の範疇に位置づけたり、多様な表現方法を有する「リフレクション(Reflection & Contemplation)」の理論と方法へ拡張・深化を図ったり、また、創作叙事詩と解題との連関について脳科学的知見(脳の「階層的情報処理*」理論:認知・情動・感覚運動)を援用し意味づけたりしていきます。
*:パット・オグデン、ケクニ・ミントン、クレア・ペイン 著、太田茂行 監訳『トラウマと身体 センサリーモーター・サイコセラピー(SP)の理論と実践
─マインドフルネスにもとづくトラウマセラピー─』(星和書店, 2012年)
個々、この経緯や背景については、いろいろなところに書き散らしてきましたが、拙著(2023)という1冊の新書には「物語/エピソード」ベースで記述されていますので、ぜひ、ご参照ください。
学校や大学というフィールドを越えて、多世代・多職種・無職の生活者/住民の方々の「まなくらしごと(学びと暮らしと仕事)」の場面で援用できるはずです。
その後、この創作叙事詩・解題が、一般に「民族誌」と訳されるエスノグラフィーとして位置付けられるようになってゆくのか、簡単に素描しておきます。
わたくしが、エスノグラフィー研究の中で、エンパワーメントされた文献がいくつかあります。
【エスノグラフィーの定義】マイケル・アングロシーノ(2016)
「エスノグラフィーは、人間集団—その制度、対人行動、有形のモノ、信念など—を描く芸術であると同時に科学である。」アングロシーノ(2016:18)
【エスノグラフィーの表現方略】アングロシーノ(2016:103-110)
(1)伝統的な学術形式でのエスノグラフィー・データの表現
・タイトル
・要旨
・序論
・文献展望
・方法論的展望
・発見や結果
・結論
・引用文献・注・付録資料
(2)文書形式でのエスノグラフィー・データの他の表現方法
① 写実主義な物語(インタビュー・ドキュメント)
② 告白的な物語(ナラティブなアプローチ)
③ 自己エスノグラフィー(自己に関するナラティブ・アプローチ)
③ 詩的表現(創作叙事詩・解題など:成田)
④ エスノドラマ(脚本と、ダンスやパントマイムなどパフォーマンスを含む演劇)
⑤ フィクション(場所・人々などが特定されないフィークションとして)
(2)文書を超えて
① 記録映画
③ インタネット上に文書とイメージを掲載すること
④ 博物館や他の場所での視覚的な表示/展示
その他:イラスト・絵画・彫刻・身体表現等も考えられる(成田)
【エスノグラフィーの特徴】小田博志(2010:6-25)
(1)現場を内側から理解する(現場の当事者性へのどれだけ近づけるか、当事者との対話・インタビューの重要性)
(2)現場で問いを発見する(予め設定したリーサーチ・クエスチョンに縛られない、問いの探求)
(3)素材を生かす(研究対象が主で方法が従であること、素材の持ち味を生かす)
(4)ディテールにこだわる(「神は細部に宿る」が如く本質に迫る)
(5)文脈のなかで理解する(細かくかつ広く、文脈=環境に位置付ける、コンテキストの重要性)
(6)A を通して B(具体と抽象、実証と理論のあいだをつなぐ、概念化の重要性)
(7)橋渡しをする(ある世界を内側から理解して、それを別の世界に伝える。あたりまえ を相対化し、自己を客観的に捉え直す、問い直し見通す「リフレクション」の重要性)
( )内はわたくしによる加筆
小田博志(2010)『エスノグラフィー入門:〈現場〉を質的研究する』春秋社.
小田博志(2023)改訂版が出ています。
☞ 【エスノグラフィー(ethnography ) の四基準】成田(2018)
わたくしは、小田(2010:6-25)をもとに、自由学園「質的研究入門」2018講義の中で学部生向けにシンプルな四つの基準を提示した。(成田,2018の講義で提示)
a. 可能限り「内側」に近づけたか?
b. 内側から「問い」を見つけられたか?
c. 目前に人・物・事 「時間的推移/文脈」を読み解き、書けたか?(注1)
d. 何かと何か(例えば、IB校と非IB校)と の「架け橋」となるか?(注2)
(注1)記録と思索をもとに記述する
(注2)IB校とは国際バカロレア校 http://www.mext.go.jp/a_menu/koku
【オート/自己エスノグラフィー】井本由紀(2013:104-111)
・「オートエスノグラフィーとは、調査者が自分自身を研究対象とし、自分の主観的な経験を表現しながら、自己再帰的に考察する手法だ。」(p.104)
・「自己の置かれている立場を振り返る再帰的な行為だけではなく、自分の感情を振り返り、呼び起こす、内省的な行為でもある。」(p.104)
・「自分の経験を振り返り、『私』がどのように、なぜ、何を感じたのかということを探ることを通して、文化的・社会的文脈の理解を深めることを目指している。」(p.104-105)
・「経験した『事実』を正確に描くことよりも、経験についての『意味づけ』を表現することが重視されている。」(p.108)
・「自分の経験を主な(場合によっては唯一の)データとして、自己の内面に迫る。これは、自己中心的でナルシスティックな行為であると批判されることがある。」(p.109)
・「エスノグラフィーは芸術なのか、科学なのか、表現なのか、分析であるのか。」(p.110)
・「ノーマン・デンジンは、(中略)権威的研究手法や歴史の意味を揺るがす実践としてのオートエスノグラフィーを提示している」、「『ドラマティックで詩的な演出スタイル』で、個人史、公的文書、論文や一般書の記述をつなぎ合わせ、『歴史の中に自分を書き込みそしてその歴史を変えるために』オートエスノグラフィーを実践する、とデンジンは言う。」(p.110)
藤田結子・北村 文編『現代エスノグラフィー:新しいフィールドワークの理論と実践』新曜社, pp.104-111.
そもそもエスノグラフィーとは、文化人類学者などがある民族の暮らし/フィールドの中に入り込み、長期間にわたってその人たちを観察したり、対話したりして、その人たちの暮らしの中にある文化の意味を読み解いてゆく研究手法の一つです。
近年、その研究手法が、特定の民族を対象とするのではなく、例えば「暴走族」に焦点を当て、社会学者の佐藤郁哉さんが『暴走族のエスノグラフィー:モードの叛乱と文化の呪縛』(新曜社, 1984年)をお書きになっておられます。
また、経営学や組織論・ビジネスの世界/フィールドでもこの手法が援用され、金井壽宏,佐藤郁哉,ギデオン・クンダ,ジョン・ヴァン・マーネン『組織エスノグラフィー』(有斐閣, 2010年)があります。
そして、学校というフィールドを対象とした、古賀正義さん編著の『学校エスノグラフィー:事例研究から見た高校教育の内側』(嵯峨野書院, 2004年)、芝山真琴さんの『子どもエスノグラフィー入門:技法の基礎から活用まで』(新曜社, 2006年)などがあります。
エスノグラフィー作品集:わたくしと学生や教職員の事例
創作叙事詩・解題からエスノグラフィー/Poetic Ethnography へ(抄):2008〜現在(2024.6.9初版)
https://genkaikyoukaiekkyo.blogspot.com/2024/06/poetic-ethnography-2008.html
Web-Ethnography Archive(2024.6.9)
https://genkaikyoukaiekkyo.blogspot.com/2024/06/web-ethnography-archive202469.html
自由学園最高学部(大学部)「質的研究入門 2020 秋期」講義録(2024.6.3)
・コロナ的状況下の講義(2020.10.12〜2021.1.25)
付:「越境する教育学入門 2020 春期」講義録あり
https://genkaikyoukaiekkyo.blogspot.com/2024/06/2020.html
越えるまなくらへの旅:学びと暮らしと仕事
(2021.2.15わたくしの統合blogとして開設)
・説明 Education「涵養成る/化育成ること」天地・自然のもとで、多様な境界や限界を超える問いと気づきと学びを、あなたと共に呼び起こし引き出し、育み養う試みを続ける旅。 研究者 Researcher・実践者 Practitionerを超えた並進者 Mutual translatorとして、つつみこみ、つりあい、つながり、継ぎ続ける問いと気づき、学びへの旅人、成田喜一郎/寺澤満春/なりっちのサイトです。
現在のタイトルの前名称は、「一即一切・一切即一/One enters into All All enters into One」というタイトルでした。
2022年4月から2024年3月まで、TOKYO854「くるめラ」『なちっちの越えるまなくらタイム/なりっちの越境する学びの時間です!』のRADIO Personalityをしてゆく中で、この名称に変更してきました。
また、拙著(2023)の付記(p.246)にこの Web SiteへのジャンプできるようQRコードを掲載してある。
https://genkaikyoukaiekkyo.blogspot.com/
My Web Site URL 一覧 2024年版 2024.5.29初版
わたくしは、およそ20年前から たくさんのWeb Siteを立ち上げてきました。
上記のサイトはその一覧です。
https://genkaikyoukaiekkyo.blogspot.com/2024/05/web-site-url-2024.html
カバー写真は、我が家のリビングで栽培しているサツマイモの葉っぱ。
2023年10月からサツマイモの一部から芽生えた葉っぱを栽培し続け、お芋本体が傷んだため、最近は写真のような状態になっても葉っぱは元気よく育っています。
「サツマイモの葉っぱ 2023.10〜現在」というフォト・エスノグラフィー(Field Notes)をアップしたいと思っていますが…….。