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弥生美術館(東京都文京区・根津駅 楠本まき展)

東京大学の弥生門すぐ目の前にある弥生美術館と竹久夢二美術館。人文系をメインにしていつもバラエティに富んだ展示を開催しており、文学者を特集することもあれば近年では漫画家やイラストレーターの作品を採り上げることもある。今回は京都でも開催され大好評を博した楠本まき展を開催。根強いファンがいることで知られる漫画家で、個人的にも好き。バンドを経験していた人ならある意味で『NANA』とかよりも知られている。

耽美・ゴシック・デカダンスといえば楠本まきの作品と言っても過言ではなく、繊細な線でデザインされたビアズリーを彷彿とさせる絵柄に詩的な言い回しが重なり独特の世界観を構築している。漫画というよりも画集を眺めているような気持ちになり、作中に提示されるキーワードから度の世界へ足を踏み込んだ人も割と多い。かくいう自分もその一人だし周りにも多い。会場に来訪する見学者もバンド関係だったり割と個性的なファッションをした人が目立っている。今回は会場のデザインを妹のキュレーターでもある楠本亜紀・楠本まき作品の装丁を多く手がけている秋田和徳の2人が監修しており、世界観を見事に再現している展示室自体も面白い。 

1階の展示室入口 ワクワク感が止まらない

1階の会場では恋愛漫画の最高峰ともいえる『致死量ドーリス』の特集から入る。バンドマンの僕とエキセントリックな蜜との破滅的な恋愛、という、プロットとしてはそう珍しくはない設定を美学にまで押し上げているのはその独特な色彩やセリフ廻しにもよるところかもしれない。個人的にも思い入れのある作品でかなりの部分を覚えている。血の何パーセントかはこの作品でできているかもしれない。

続いてミステリ仕掛けの『Kの葬列』のコーナーへ。アパートへ入居してきた青年ミカヤ、そこでは彼の前の住居人だったKの葬式が行われていたところだった。けれど棺にKの死体はなく、なのにアパート住民はみんなKが死んでいることだけは知っている、という奇妙な導入部からはじまり、Kについて調べることから複雑に絡み合った登場人物の人間関係が次第に明らかになって行く。K、G、u、i、ltyといったタイトルで繋がるKの罪、本編ラストの衝撃の一言も堂々と飾られている。

続いて『エッグノッグ』や『悲劇的/その他卵に関する小編』、代表作である『KISSxxxx』を紹介している。『エッグノッグ』をイメージさせる大理石の卵や、『KISSxxxx』の登場人物であるカノンがつけていた時計や腕輪、かめのがつけていたヘッドドレスなどが現物として(作者個人のコレクションとして)紹介されているのも興味深い。

2階の展示室入口 こちらは割と明るめ

2階へ上がるとクローン羊の細胞具ドリーをテーマにした『ドはドリーのド』、最新作にあたる『赤白つるばみ』や初期作の紹介をしている。中央のガラスケース内には、校訂で作者自身による細かいデザイン指定がされている原稿が展示。吹き出し内の言葉の位置を1ミリ下げる、とか、細かい箇所になると0.15ミリという単位での指定が入っており、作者がデザインも含めて作品としてこだわり抜いていたことが垣間見える。ビアズリーを彷彿とさせる絵柄から、オスカー・ワイルドをテーマにした作品のパンフレットポスターも手がけていたり、彼女が愛聴していた音楽のジャケット紹介もある。The CureにBauhaus、The Birthday Party、YBO2、Z.O.A、David Bowie、Iggy Popと、大いに頷けるラインナップである。

2階の記念撮影エリア

2階から3階へ上がる踊り場には記念撮影エリア。3階への階段には『KISSxxxx』に登場したバンドたちのライブチラシ(もちろん架空)が大量に張り出されていて、これを見るだけでも楽しくてたまらない。特に共演バンドの欄が最高である。

dip the frog とか GASP(ボーカル:TOY)とか小ネタが満載

3階は『KISSxxxx』をメインにした展示。作者の作品の中でも圧倒的な人気を誇る作品というだけあって大きなスクリーンに作品を投射させるなど、見どころがいっぱいある。イメージ映像も当時に制作されていたらしくビデオテープの映像も流れている。トイレは洋式。

3階の展示室 『KISSxxxx』がメインの展示


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