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樫尾俊雄発明記念館(東京都世田谷区・成城学園駅)
計算機や時計、音楽機材などで知られるカシオ。その創業者であり発明家でもある樫尾俊雄の記念館が成城学園にある。かつて樫尾俊雄本人の住まいとしても使われていた広大な邸宅の一部がミュージアム機能を持って一般に公開されている。
最初に入り口の時点から邸宅の広さを予感させる作りになっている。吹き抜けの天井にステンドグラス調の出窓からは光が差し込み、昔はここに御息女の愛用したグランドピアノも置いてあったらしく、壁も防音な上、音の反響を考えたアールがかかっている。二ヶ所にあるステンドグラスは夫婦それぞれをイメージした鳥(鷲と極楽鳥)がデザインされている。建物自体が鳥の羽を広げた形を意識した六角形となっているのも特徴的である。まずは映像で樫尾俊雄の業績を紹介してから展示室へ。崖の上にある本館と下にある別館とを階段を伝って移動する形式になっている。
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まずは本館の展示室「発明の部屋」でカシオ創成期を支えた電気式計算機の紹介を行なっている。世界初の小型純電気式計算機である「14-A」を発明した樫尾俊雄をはじめとした樫尾四兄弟。逓信省で電話通信を手掛けていた経験からリレー方式を取り入れ、従来の大型のものではなく小型化することに成功したという。
最初の発表会では掛け算・割り算まで間に合わなかったものの、参加者に評価されて資金繰りに成功して開発へ。かつてはモンロー式という歯車やモーターを使った騒音がひどいものが多かった計算機の業界に革命をもたらした。現在は国立科学博物館とアメリカのスミソニアン博物館にあるが、実際に稼働するのはここだけ。計算の入力方法なども特徴的で現在の計算機とは使い方が異なるものの、かなりスピーディに動くことがわかる。この「14-A」は自動車1台分くらいの値段だったが飛ぶように売れ、さらに「AL-1」という計算機も開発し電気式計算機ブームの発端となった。これも稼働する。
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「数の部屋」ではさらにそこから電卓へと移り変わる歴史が紹介されている。高度経済成長において必要なツールである電気式計算機は1年ごとに新たな商品が出るなど他社との激しい技術競争が激化し、どんどん小型化・軽量化・低価格化が進む。電気式計算機は卓上型から電卓へとなり、一課に一台から一家に一台、一人に一台とした「カシオミニ」はポケットサイズで累計1000万台を記録している。
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続いて階段を下りた別館へ。「音の部屋」ではカシオの楽器を紹介している。音楽が好きだった樫尾俊雄が長年いだいていた楽器作り。楽器を作った先人たちはもっと良い音を作りたかったに違いない、と考えて鳥の声や人間の声を研究し、逆再生することで聞こえる言葉の違いなどから、子音(唇の動き)と母音(伸ばす音)を分けて考えた発音システムを開発し、鍵盤楽器・弦楽器・管楽器など29種類の音色を作り出すことに成功した「カシオトーン201」は安価で爆発的なヒットとなった。ちなみに最初に開発された楽器を気に入った樫尾は家に持ち替えれば風呂にも入らない入れ込み様だったため、会社に常備するようにしたところ無遅刻無欠勤になったなんてエピソードもある。楽器マニア垂涎の「コスモシンセサイザー」もある。
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隣は「時の部屋」で、当時すでに新規参入の難しかった腕時計へと計算機の技術を持って参入。時間は1秒ずつの足し算と考えてその技術を応用してデジタル時計を開発。「カシオトロン」は月の表記や週の表記、オートカレンダーを搭載した世界初の腕時計となっている。そのほかにもストップウォッチ機能やメモリ機能搭載の時計を開発している。もちろん「G-SHOCK」の展示もある。最初は海外でよく使われるようになって日本へ逆輸入する形で人気が高まった。
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最後は書斎として使われていた「創造の部屋」で、こちらは広い窓の前に庭園が広がる眺めの良い部屋になっている。大理石で作られた壁や、最初に開発した「パイプ付き指輪」の展示などがされている。ここで生前の樫尾俊雄の映像を見ながら、その発明の礎にあった情熱を感じることができる。「発明には普遍性があり、創造性がある」「社会に貢献しようという気持ちが大事、そういう気持ちでやれば成功する。儲けを期待しないでいいものを作る」といった彼の言葉が印象に残る。
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実際に館内を見学する際には自由見学ではなく、添乗員の方の説明を受けながら順路を回って行く形になるため予約制となっている。今回は小林さんというかつて勤めていた方に説明を頂きながら見学。1時間半の行程ではあるものの、いろいろと話をしながら回って行くとあっという間に時間が経ってしまう。正味2時間近くお邪魔させてもらった。トイレはウォシュレット式。邸宅のトイレだっただけあってとても豪華。
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