澤乃井櫛かんざし美術館(東京都青梅市・沢井駅)
澤乃井といえば日本酒である。小澤酒造では酒蔵見学も積極的に行っている。是非ともここは、といったところではあるけれども、あいにく予約は満席、そもそもこれ以上に飲んだら歯止めが効かなくなるので今回は酒蔵見学は控えて美術館の見学へ勤しむ。
澤乃井が監修しているのが櫛かんざし美術館。料亭の女将で櫛・かんざしの収集家だった岡崎智予が生前に集めていたコレクションをもとにして開かれた美術館になっている。その数5000点、髪飾りの他にも衣装や装飾品などそのどれもが技巧に溢れて美しいという夢のような美術館になっている。
館内に足を踏み入れば目の前の大きな窓からは多摩川が見渡せるという絶景の展望スポット。何気に大名時計が端にしれっと飾ってあるのも高ポイントだったりする。
展示室1では江戸時代を中心とした展示がされている。それぞれの時代に流行した髪型のアレンジが実際のセットをされた状態で紹介されていてわかりやすい。長髪ではないのでなかなか機会がないけれど、髪結いって大変なんだろうな。
何気に序文が樋口清之という、以前に國學院大学博物館で変態的に土偶や土器を収集していた教授だったりする。やはりコレクターはコレクターを引き寄せるのだろうか。
櫛や笄(髪をかき上げて髷を作る意図で作られた装飾品)がめちゃくちゃ良い保存状態で展示されている。ほぼ欠けどころか色落ちも無いのに使用感はしっかりとある。鼈甲、象牙、それに蒔絵を施されたものなどがある。櫛を挿した状態のいわゆる「見せ櫛」にも装飾が施されるようになって行く。中でも原羊遊斎という蒔絵師が手がけた櫛は鮮やかで手元に置いておきたくなるほど。
かんざしにも趣向が凝らされている。目移りするくらい格好いい。そして派手であればあるほど重そう。お洒落は努力なのである。
矢立という、携帯する筆入れの紹介もされている。これまた懐から出したら目を引きそうな洒落たデザインが多い。
展示室2では幕末から明治、大正、昭和といった時期に至る変遷を紹介している。明治時代には地味で小ぶりなものが増えたものの、若い人は大きく派手なものが多かったという。ジェネレーションギャップというやつですね。
小さいが故に職人たちは精緻な細工を凝らすようになったらしい。大正時代に入ると洋髪の流行が出始めてそれに合わせた櫛・かんざしが増えたという。デザインもアール・デコ調のものが多い。
昭和になると素材もセルロイドやプラスチックが加わり、庶民に浸透するようになったのだという。変わったところではつまみ細工の花飾りなんかもある。中央のガラスケース内には矢立の他に紙入れ、煙草入れなどが展示されている。
休憩室がありここで一休みできる。展示室3と繋がっており、今回は企画展として着物リメイクを行っている矢口敏子による展示が開催されている。着物を使って普段つかう洋服へとリメイクするという和と洋の融合。なかなか面白い作品が揃っている。
ここから出られる庭も美しい。多摩川渓谷を眼下に見渡せる素敵なロケーションになっている。トイレは洋式。