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民音音楽博物館(東京都新宿区・信濃町駅)
東京都内で個人の博物館を除いて音楽に関連するミュージアムというと、武蔵野音楽大学や国立音楽大学の楽器ミュージアムが有名である。とはいえいずれも都心からはややアクセスが悪く、なかなか訪れるのも難しい。そんな中、都心の信濃町からすぐ、大通り沿いに面した場所に建つ民主音楽協会の建物に入っている民音音楽博物館は利便性がよく気軽に行ける楽器ミュージアムと言えるかもしれない。
音楽文化の向上や音楽を通した異文化交流を目的として作られた民主音楽協会は創立から60年を迎える協会。国内外のアーティストによるコンサートやイベントを興行しており、特に海外アーティストではシルクロード沿線の音楽文化を紹介した「シルクロード音楽の旅」や東南アジアを中心とした「マリンロード音楽の旅」、アルゼンチン・タンゴ、それにサンタナやハービー・ハンコック、ウェイン・ショーターなどを招聘するなど幅広く手掛けている。
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存在は知りつつもリニューアル工事中でなかなか入れる機会を持てずにいたのが、2022年12月にリニューアル工事を終えて再開されたという情報を知り満を持して訪問。2階まで吹き抜けになっている広いロビーはさすがリニューアル間もないこともあって清廉としている。1階にはオルゴールなどの自動演奏楽器をメインにした展示室、2階にはピアノなどの古典楽器の展示室の他、民族楽器の展示室、これまでの民主音楽協会の歴史、企画委展示室の合計5つの展示室からなっている。2階ではマイケル・ジャクソンからの寄贈品も紹介されている。
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こちらのミュージアムの特徴として、実際の楽器演奏を観て聴くことができるというのがある。1階の自動演奏楽器の展示室では、各種のオルゴールや蓄音機、変わったところでは自動演奏ピアノの生演奏を間近で聴くことができる。オルゴールなどはからくり人形を使った動きも一緒に楽しめたり、自動演奏ピアノなどはロール状にセットされた楽譜に従ってピアノの鍵盤が実際に上下して音を奏でるなど視覚でも楽しめるものとなっている。
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衝撃的なのが2階のピアノ展示室。こちらには16世紀のチェンバロが現存しているほか、18世紀のシュトローム、世界に4台しかないアントン・ワルター、ベートヴェンの弟子が所有していたヨハン・フリッツ、演奏中にドラムとベルが鳴るトルコ式ペダルが特徴的なコンラート・グラーフ、ピアノの貴婦人と呼ばれた豪華なピアノであるエラールなど、10台もの歴史的価値の高いピアノが残されており、これらを紹介するスタッフが「では音を聴いてみましょう」と、椅子に座ってプロ並みの演奏をしはじめる。解説者でありながら演奏者でもあるというそのスマートさにも驚かされるし、ほぼ全てのピアノが演奏可能として使われている保存状態にも驚く。
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大抵こういった実演は待ち時間を取られることが多いのだけれど、こちらのミュージアムは1階の自動演奏楽器と2階のピアノ演奏は時間ごとに入れ替わり立ち替わり常に実施されており、それぞれの空き時間で他の展示室を見られるという、ほぼ無駄のない運用の仕方にも感心である。トイレはウォシュレット式。
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