国立映画アーカイブ(東京都中央区・京橋駅)
しれっと国立である。博物館や美術館と肩を並べる充実した施設であるにも関わらず来訪者は必ずしも多くないという、もったいない施設でもある。現在では映画館やパッケージでも容易には観られないような貴重な映画を安価で上映してくれているという、国立であるがゆえに可能であるサービス。所蔵する大量のアーカイブがなせる所業でもある。
映画館の他に展示室が7階にあり、常設展では日本の映画の歴史について紐解いている。今回は二度目の訪問になるため前回をおさらいするくらいだったものの、相変わらず充実した資料の数々。映画黎明期から戦後に至るまでの撮影機材やポスター、それに当時の映像まで流れているという恐ろしいまでのラインナップ。上映時間の合間に訪れてみるのもまた良いかもしれない。
企画展では日本の映画館についての特集をおこなっている。長い間、一般における娯楽の中心だった映画。現在における映画館の形態はシネマコンプレックスが主体となっているものの、かつては色々な街角に小さな映画館や盛り場には豪華な大型劇場が多くあった。その往時の写真や映画プログラム、実際に映画館で使用された道具などを紹介して、かつての映画館の有り様を偲ぶといった趣旨の内容になっている。
最初に映画館の隆盛を支えたのは浅草。浅草六区に日本初の映画館として出来た「電気館」を皮切りにして、「三友館」「大勝館」「富士館」「オペラ館」「帝国館」「千代田館」と次々に立ち並び、浅草は映画街となって興行の中心となった。
震災や戦争など時代に翻弄されながら徐々に市街地は浅草から新宿へと西へ広がって行く。外国映画興行で発展したのが新宿武蔵野館で、これは地元商店街の有志によって開館したという変わった映画館で、震災によって多大な被害を被った浅草に比べて軽度だった新宿武蔵野館はまさに一時代を築いた。
初期の映画配給会社は松竹で浅草は元より、帝国劇場、歌舞伎座、東京劇場といった丸の内・銀座周辺に一大拠点を築いていた。そこに新興勢力としてやってきたのが東宝。日比谷に東京宝塚劇場、有楽座、日比谷映画劇場、それに日本劇場を開館して松竹の牙城を崩すほどの勢いを見せ、地方においてこの二社による対立が盛んになっている。
ここで特集されているのが地方の映画館について。川崎を発展させた美須鐄と北九州を発展させた中村上によって発展した両映画街を紹介している。個人的には川崎の銀映会が馴染み深い。現在はイタリアのようなおしゃれな街へ発展している映画街のラ・チッタデッラ、ちなみに実はチネチッタ映画館の地下階に歴史ギャラリーがあったりもする。
日本の映画で忘れてはならないのがATGの隆盛によるアート系の劇場。『尼僧ヨアンナ』の上映に始まったアート・シアター・ギルドがアート作品を積極的に紹介したことで芸術映画のジャンルを国内に浸透させることに成功している。小劇場での展開ということからミニシアターが続々と生まれ、名画座なども誕生している。映画館離れが進んでいる昨今、こうした名画座・ミニシアターが続々と姿を消してしまっているのは寂しい。かつての映画館の名残りを持つような映画館にはいつまでも在ってほしいと思ったりする。
トイレはウォシュレット式。従来であれば屋上にも出られるのだけれど今回も閉鎖されていた。残念。
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