埼玉県立近代美術館(埼玉県さいたま市・北浦和駅/吉田克朗「ものに、風景に、世界に触れる」展)他
MOMASの愛称で知られる埼玉県立近代美術館。屋外に点在している屋外彫刻もさることながら、建物自体に柱がぶっ刺さっているという特徴的な外観をしていることでも知られている。久しぶりの訪問で、今回は企画展として「もの派」を担った芸術家の吉田克朗「ものに、風景に、世界に触れる」展と、コレクション展として収蔵品を公開するMOMASコレクション展が開催。
企画展は2階で行われている。吉田克朗は戦後の日本美術に変革をもたらした(現代アートの発端とも言える)「もの派」という系統を形づけていったアーティストの一人。実験的な手法を通して絵画を探究し、物体を組み合わせて、その特性を鑑賞者に問いかけるというスタイルを持つことで国際的にも注目を浴びることになる。
同じ「もの派」の代表的な作家である関根伸夫らと共に共同のアトリエで制作を行ってきた。もの派だけでなく、そのあとは版画の制作や転写、抽象画や粉末黒鉛を手指でこすりつける技法などさまざまな画風で駆け抜けていった作家でもあり、今回の企画展ではその55年の生涯で製作した作品を追いかけて行く。
コレクション展は1階で開催。美術館の入口からすぐ左手にある。企画展が奥の方にあるのに比べて場所が離れているのも面白い。コレクション展では近代美術に強いMOMASの特徴でもあるエコール・ド・パリの絵画(モーリス・ユトリロ、藤田嗣治にモイズ・キスリングなど)から始まり、マルク・シャガールやパブロ・ピカソもある。クロード・モネもね。
続いてはアンドレ・ブルトンが提唱し時代の潮流となったシュルレアリスム宣言以降の作品が並ぶ。甘美な死骸は新しいワインを飲むだろう作風は、イヴ・タンギー、ジョアン・ミロといった作家の作品に体現される。つまりシュールである。日本からは古賀春江や加納光於、瑛九に瀧口修造といったシュルレアリスム界隈におけるお馴染みの作家たちの作品も見どころがたくさん。
さて、企画展やコレクション展の他にも地下1階には広大な展示室がある。普段は市民ギャラリーとして利用されている展示室が3つほどあるのだけれど、今回はこの地下1階のフロアーを全て使用して、車椅子の画家として活動していた岡部文明の個展を開催。ラグビーで怪我をして車椅子の生活を余儀なくされてから、麻痺した手に絵筆を縛り付けて描くルノアールの姿に感銘を受けて画家として活動してきた岡部文明により、サーカスとピエロに魅了されて描き続けてきた非常に多くの大作に圧倒される。
なんといってもMOMASの特徴は椅子のコレクションだろう。多くのデザイナーによって設計された椅子が館内のあちこちに点在しており、それらは自由に座ることができる。普段よく都内など美術館で椅子デザインの企画展が行われていることが多いけれど、見るだけで触れることのできないそれらの展示品に対して、このMOMASでは椅子に実際に座ることもできるということから、椅子デザイン好きにとっても避けては通れないミュージアムと言える。トイレはウォシュレット式。
・造幣局 造幣さいたま博物館(埼玉県さいたま市・さいたま新都心駅)
2回目の訪問となる造幣さいたま博物館。国が管轄している施設で、さいたま副都心駅から西へ少し歩いた場所にある。街のメインとなる施設からやや離れた場所にあるものの、建物に「造幣局」の大きなマークが明示されているのでわかりやすい。1階にはショップと休憩室を兼ねた映像展示がある。
造幣さいたま博物館の2階が展示室となっている。展示室は以前に訪れた時から大きな変化はない。貨幣の成立過程や、日本における貨幣の製造工程を細かく説明した展示室、それにこちらで製造している勲章なども変わらずにある。工場見学は平日でしかないのが寂しいところ。国の施設というのはどこもこんな感じなのだろうか。
ちょうど新紙幣が開始されたというこのタイミング。渋沢栄一のお膝元であるさいたまということもあってさぞかし大々的に特集を組まれているのかと思いきや、展示室の隅で少しコーナーがあるだけでほぼ無風状態である。そもれそのはず、おなじお金でもこちらはコイン貨幣をメインとした博物館。紙幣を製造している国立印刷局とは別である。紙幣が変わろうが貨幣にはあまり関係がないのである。
2回訪れたもののいずれも訪問者は少なめだったので、工場見学がない日に訪れれば割とゆっくりと自分のペースで見られるかもしれない。とはいいながらも、機会があれば工場見学で貨幣がどういった感じで製造されるのかは見てみたい気もする。トイレはウォシュレット式。