伝統芸能情報館(東京都千代田区・半蔵門駅)※閉館
国立劇場に隣接する施設として日本の伝統芸能を伝える伝統芸能情報館。特に歌舞伎を中心とした展示を行っており、展示室の奥にはシアタールームが備えられていて、そこで歌舞伎の演目を放映していたりする。初めての人にも抵抗なく、また好きな人であればアーカイブを見るような感じで楽しめるミュージアムと言える。
今回の企画展は国立劇場の所蔵している上方浮世絵を公開するというもの。上方、つまり大坂や京都では浮世絵が制作されるようになったのは18世紀末と、江戸よりも100年ほど遅れてからのもの。ただし歌舞伎役者を描いた役者絵の比率は江戸に比べて圧倒的に多く、むしろ風景画などよりもジャンルとしては特化していたという。役者を格好良く描く江戸の役者絵に対し、上方の役者絵は写実的でありのままに描かれれるという作風だった。また絵の具が安価な「並摺」と金銀の絵の具を使用する「上摺」とがあったが、江戸で禁止されていた上摺がこちらで多用され、国立劇場の中判作品はほとんどが上摺の作品。その豪華さが圧倒的である。
役者は江戸時代の花形、とにかく憧れの的であった。舞台上の役者だけでなく、舞台を降りた役者の姿や楽屋に至るまでさまざまな姿の役者が題材になっている。個人情報なんてあったものじゃなく、それがエキサイトして住んでいる場所や給金までが集められた浮世絵まで出されている。役者が亡くなると没年月日や戒名などを記載した「死絵」が描かれたという。現代とは比べ物にならない役者の人気が窺える。
上方浮世絵の特徴の一つに絵入根本の存在がある。根本とは上方で台本を意味する用語で、要は歌舞伎の演目が書写されて台本として描かれ、その中に役者似顔絵の挿絵が入ることでまるで芝居を見ているように感じさせる読み物である。芝居の内容をより深く知りたいという上方の欲求が具現化したものといえる。そのあたり、役者の容姿に注視した江戸の役者絵とはまた異なる。
前回おとずれた時には撮影不可だったこちらのミュージアムが今回は撮影可となっている。間口を広げるためSNSなどでの拡散を考えてのことなのか、はたまた権利関係の問題か、その辺りはよくわからないけれど、前回とは打って変わって見学者がちらほらと見受けられる。もしかしたら国立劇場のオープンシアターが開催されていた影響もあるのかもしれない。いずれにしても見学者が増えることは良いこと。もちろん独占状態になる閑散としたミュージアムも個人的には好みだけれど、自分自身の見学ペースが確保できるくらいの見学者で賑わってほしい。
トイレは和式と洋式。国立劇場の建て替えに合わせてこちらも休館してしまうのだろうか。ミュージアムにありがちな、休館してそのまま再開の目処がたたずに閉館してしまう、なんていうことがなければいい。そういうパターンの場合だいたいニュースにもならず人知れず閉館していたのを後になってから知ることになるので。
追記・・・2023年10月末をもって閉館。あるうちに行かないと本当に二度と行けなくなってしまう。切ない。
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