たましん美術館(東京都立川市・立川駅)
多摩エリアに多く展開している多摩信用金庫の運営するたましん美術館では、多摩ゆかりの画家である邨田丹陵の初の本格的な展覧会を実施。「時代を描いたやまと絵師」という触れ込みで、彼の描いた大和絵を中心になっているのも特徴。巨大な蜂の巣のオブジェが構える入り口に度肝を抜かれながらチケット売り場で入場券を購入、入場券はそのまま展示室への通過ゲートとして使用する形をとっている。
邨田丹陵は明治時代に活躍した画家で、主に大和絵と呼ばれる古典の絵画を手がけていた。大和絵師である川辺御楯に学び、その後継者として伝統的な大和絵に近代的な表現を取り入れており、記紀の神話から奈良・平安を経て源平合戦、戦国時代までを中心に画題としている歴史画家として多くの作品を手がけた。
展示室には大作である『霊峰富嶽図』をはじめとして、『義家献弓』『鎮西八郎為朝之大嶋故事之図』『六歌仙』など時代の主役となった人物たちの大和絵が多く展示されている。また義兄の寺崎廣業との共作も展示されており、彼らと共に日本青年絵画協会を立ち上げて「丹陵時代」を築き上げたという。後に日本美術院と合流することになるが、そのあたりからは中央画壇と袂を分ち立川へと転居し、半ば隠遁するようになったことから、その業績があまり知られていない画家となっている。
邨田丹陵の作品の中で最も知られているのは、金刀比羅宮にある障壁画の『富士巻狩図』と、明治外苑にある聖徳絵画館に展示されてい
る『大政奉還』だろうか。特に大政奉還は立川へと隠遁してからの作品であり、明治天皇の業績を寿ぐ目的で当時の日本画家・洋画家が描いたいくつもの絵の中にあって幕末の大政奉還にまつわる一場面を指している。立川への隠遁後は画業のかたわらで菊を育てることにも心血を注いだと言われている。
非常に繊細な大和絵が多く見られるということもあって画集は早いうちに完売している。知られざる画家の新たな発見によってこれから注目されるだろう画家の一人と言ってもいい。館内にトイレはなし。
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