見出し画像

旧前田侯爵邸(東京都目黒区・駒場東大前駅)

前田侯爵、前田という名前から想像できるように前田利家から続く加賀百万石の前田家、華族である。その邸宅というのだから広さは想像に難くない。とにかく広い。大きい。豪華。屋敷である。もう一般のブルジョワジーとは訳が違うレベル。
もともとこの邸宅のある駒場公園一帯が前田家の土地ということからもその規模がわかるというもの。そもそも駒場一帯は移転後の土地で、その前は本郷の土地、つまり今の東京大学のある一帯が邸宅で、その頃はさらに広い邸宅だったという。駒場では質素な暮らしを望んだ結果、コンパクトにまとめたそうだけれど、コンパクトの意味とは何か問い詰めたいレベルの大きさである。

・旧前田侯爵邸洋館

建物は3階建てになっていて見学エリアは2階まで。1階は社交場として用いられ、2階が家族の生活スペースだったという。順路としてはまず1階からということになる。社交場といっても来賓は外交団や皇族といった面々である。設計は聖徳記念絵画館などを手がけた高橋貞太郎だし、渡り廊下でつながっている和館は平安神宮などを手がけた佐々木岩次郎が携わっている。贅沢の極みであることは間違いない。なお洋館は英国大使館附武官としてロンドンで駐在していた当主の利為による意向が活かされているという。

門構えは立派だわ車留めはあるわ

サロン。概念としてサロンはあるけれど、日常でサロン部屋がある邸宅である。高い天井、黒緑大理石の柱、黒色大理石のマントルピース、カットガラスを用いた窓、ため息しか出ない。隣接して第一応接室もある。ダマスク柄の壁紙にカーテン、白タイルのマントルピースといった趣である。もちろん接遇のための部屋なので内装に手をかけるのはわからないでもないけれど、先立つものがなければこうはいかない。限りない財力に膝をつく。

サロン…なんという美しい響き…

隣には小客室と大客室が連なっている。シャンデリアが印象的。大客室にはピアノもある。毎晩のようにピアノ演奏が行われていたのだろう。すぐ隣には大食堂もある。食堂といっても社員食堂も学生食堂でもない。晩餐会を行うための食堂である。マントルピースがここにもある。つまり暖房はしっかり完備、これぞブルジョアジーのなせる業である。
家族のための小食堂もあるが、これまたおしゃれで、なんと地下の厨房から料理を運ぶためのエレベータまであったという。全くため息が出る。食器も飾られている。エッグ・スタンドとかグレープ・スタンドとか、一般家庭なら皿で充分である。

大食堂と奥が小食堂 さぞかし美味しい料理が並んだのでしょう

中央階段へ戻ってきていざ2階へ、という前に階段の下にはイングルヌックがある。どの家にもありますよね、イングルヌック。今日はイングルヌってみたい、なんて時に使われますね。まあ、常識なのであえてそれが何なのかなんて説明するのも無粋ですね。

一般家庭の常識イングルヌック

2階の家族スペースではまず次女の居室。こちらでは邸宅の壁紙に使われている金唐紙についての解説資料がある。
隣は侯爵夫人の部屋で、こちらは家族団欒で過ごした部屋だという。家族が団欒とするなら広くてもまあわかる。問題は隣にある侯爵夫妻の寝室。寝室って言ったらベッドで寝るだけである。なのにこの部屋だけで一般の家庭で暮らせるだけの充分なスペース。
浴室は当然ながら暖房も装備されていたという。冬は寒いですもんね。当たりまえ当たりまえ。洋式トイレも兼ね備えた部屋だったという。隣には三女の居室、女中溜の準備室があり、廊下には金沢ゆかりの工芸品が展示されている。
さらに奥へ進めば奥女中の私室がいくつもある、ちなみに女中は金沢の金城女学校の優等生を校長先生が行儀見習いとして毎年つれてきていたという。

女中室は六畳

2階には会議室もある。陸軍大将だったこともあり部下との会議で使用されたという(華族ではあったものの武官として太平洋戦争へ赴きボルネオ沖で陣没している)。現在は邸宅や金沢に関する映像を上映している。ちなみに中庭もここから見られる。
さらに従者室、三男居室(図書室)と浴室(情報コーナー)を経て長女居室へ。壁には黒田清輝らの作品が飾られてグランドピアノも置かれていたという。ちなみに男子は大久保別邸にあった敬義塾で教育を受けたため本邸にはあまり居なかったという。ちなみに長男は本家、次男は夭折し、三男は分家の家督を継いでいる。
最後は書斎。次の間と繋がっている書斎は流石に当主の部屋だけあって広い。ここに住みたい。この部屋だけでいいから住みたいものである。暖炉もあって机もあり、本棚もしっかりと添えられている。最高でしかない。
トイレはウォシュレット式。1階は複数台、2階は個室になっている。

邸宅というより宮殿

・旧前田侯爵邸和館

和館は1階の一部が見学できるエリアとなっている。全面が畳敷きの大廊下を通れば眼前に見えるのが十七畳半の御次之間。ここから日本庭園も見渡すことができる。御次之間の隣にあるのがメインである御客間でこちらは二十一畳の広さを誇る。

なんて広さだ

違い棚や透かし彫りなど細やかに配されており、ここに外国人を中心として接待をしていたという。こりゃ外国人からしてみれば刺激的だったことは想像に難くない。茶室や座敷などは貸し出ししているらしく、時期によっては館内はガイドもしているという。トイレはウォシュレット式。

入口から良い


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?