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『お金がなくて家を売ろうとして来てくれた不動産屋さんに「御社、従業員募集してますよね」って言ってみて転職成功した話』

昨今のラノベタイトルのような記事タイトルですが普通に実話だったりする四四田です。

皆様こんばんは。

#転職体験記

タグがちょっと前から気になって。

四四田今の職場で正社員経験としては二社目、なのですが、そういえば就職活動ってしたことないし、転職活動もほぼやってないんだよな。

今の職場はハローワークで見つけて一番最初に面接の申し込みをした会社で、四四田スーツ持ってなかったから黒いスカートに真っ赤なタイツ履いて面接に行き、のちに同僚となる社員の皆様から、

「赤い靴下を履いた頭のおかしいやつが面接に来た」

と噂されていた、と後に聞かされた。
社会常識なくてごめん。面接に赤いタイツは履いて行ってはいけない。学んだ。


赤いタイツも、わりとすべらないネタ的なのですが、
さらにすべらないネタ的に持ってるのが表題のエピソード。

『お金がなくて家を売ろうとして来てくれた不動産屋さんに「御社、従業員募集してますよね」って言ってみて転職成功した』

という。

そのとき四四田は20代後半に差し掛かろうというところ、学歴は高卒、正社員経験なしのアルバイター。

社会保険完備なところでそろそろ正社員なるものになってみたい、と急に思い立った。

その時、四四田は実父と暮らしており。

四四田の父はDV酒乱おじさん。


四四田や他の家族が経済力を持とうとするととてもとても邪魔をする人で、邪魔をされたことに精神的に負けると、それはそれで生きる価値がないとか早く死ねとかろくに稼げもしないくせにとかシンプルに出てけとか色々言うので、僕も他の家族も父の暴言の隙間を掻い潜るようにして生きていた。

もちろん僕が高卒アルバイターだったのは、父のDVのせいだけではなく、他にも僕自身の精神状態があまり良くない別の事由も多少なりとも影響はしていたと思う。

どう転んでも先が無い状況だった。


そんな中、四四田の父が、

「お金がない」

と言い出したのがひとつの転機だった。


お金がない、のは別に初めてのことじゃなかった。

四四田父はフリーランスで少し変わった仕事をしていて、お金がある時とない時の差が激しかった。
そんなのは僕が生まれるはるか前から日常茶飯事。今に始まったことじゃない。

嫌なのは、お金がない時期のために、お金がある時に貯めておいたり、何某かの対処をしておいたらいいのに、父はそういう計算ができない人だ、という点で。
お金がない時期に差し掛かると、普段からよくない機嫌がさらに悪化するところだった。

暴れる頻度があがるわけですな。


そのタイミングがその時もやってきていた。


ただ、違ったのは、僕がこれを転機だ、と思ったことだ。


お金がない?

ならこの家を売って家族解散しましょう。


家はローン完済済みの父名義の持ち家だった。

僕は、この家さえ物理的になくなれば、家族がバラバラに暮らす良い口実になると思った。

今がチャンスだと。


DV加害者のよくあるパターンで、口では色々と暴言を吐くが、実際に言った通りに家族が出て行って自分の支配圏から消えることは絶対に望まない父は、当然激しく抵抗した。
でも僕はその時、なぜか妙に強気だった。


だってお金がないんでしょ、もう売れるものなんてこの家しかないですよ!!

そうして父の説得もそこそこに、僕は本当に不動産屋さんに長文のメールを書いた。
内容は父所有の自分の実家を売りたい、ついては実際に物件をプロの目で見てほしい、自分が良いと思う点やアピールポイントをこれでもかと詰め込んだ。相当な超大作だった。


返事はすぐにきた。
とんとん拍子で不動産屋さんが来てくれる日が決まり、父も対外的にはおとなしいがために実際に不動産屋さんが来るとなっては諦めたのか静かになり、当日を迎えた。


来てくれた不動産屋さんは、僕の実家を実際に売るとなると相当に難しいだろう難点を丁寧に教えてくれて、その上でどんな販路が考えられるかをわかりやすく教えてくれた。

わかりやすく教えてくれていたのだけれど、

この家を売るのは相当に難しい。

そう言われたときに、僕は、ああじゃあこの家は解散できないのか、と瞬間的に絶望していた。

今振り返っても当時の僕はどうかしているのだけれど、絶望感が生きる道を探して次の一手を掴んだのだと思う。



ひとしきり説明をしてくれた担当者がいざ帰ろうとしたとき、僕の口からはすらっとこんな言葉が出た。

「あの、御社のホームページに従業員募集とあったのですが、応募するにあたってはやはり資格ですとか、学歴なんてものは必須なのでしょうか」


不動産屋さんは、一瞬驚いたような顔をして、
「特にそういう決まりはないです」
と言った。


そういう決まりはない

「それはつまり、例えば私は高卒だし、正社員経験もないし、不動産に関しては何も知らないのですが、それでも応募すること自体はできますか」


僕の家を見に来てくれた、のちに上司になる不動産屋さんは、
「応募してくださるのなら、社長に話しておきますね」
と約束してくれて帰って行った。

家が実際に売れるかどうかも、検討してもらえることになったのだけれど、そちらはあまりかんばしくなさそうだった。


僕は、実家を売り込んだのと同じくらいの長文の履歴書を書いた。その時の僕にアピールできることなんて、それまでしてきたアルバイトの種類が、平均的に見れば多いだろうこと、またその内容がいささか一般的ではないものがある、くらいしかない。不動産業には何も関係なさそうな、舞台経験やパフォーマンス経験なんかも丁寧に丁寧に書いて、応募フォームから送った。

返事は家を売りたいという連絡をしたときと同じくらいの速さで来た。
すぐに社長面接だったのは、おそらくあの来てくれた担当さんが本当に話を通してくれていたのだろうと思う。

そうして僕は、

不動産屋になった。

車の免許もない、宅建の免許なんて当然ない、学歴も正社員経験もない状態で。


今思い返してもよくわからない勢いで、人生のやばい瞬間を拾ってもらったなと思って、今となっては元職場、となってしまった会社には感謝の念が堪えない。

そんな、僕の転職体験記である。


後日談として。

採用されて、社員として働くようになってから気づいたのが、家を販売したいという売り主からのメールは実に山のように届いていて、その大半が後回しにされていることだった。

物件として魅力的かどうかが重要で、魅力が少ない物件は場合によっては相手にしていなかった、業務量に対して時間が足りなくて。

父の家は結局売ることができなかった。
物件の状況の難易度が高く、売れる見込みがおおよそ無いという判断だった。

つまり、僕の実家は本来的には物件を、見に行くなんてありえない。魅力が少ない物件だった。ということで。

でも、あの時は来てくれたんだよね。

僕が書いたあの捻り出したアピールポイントをこれでもかと詰め込んだ長文メールのおかげだったのかもしれないな、と自分では思うようにしている。

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