小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-11
イベントのタイトルが『花言葉ナイト ~Nacht der Floriographie~』へと決まってから、葵のプライベートの時間は企画のための情報収集と思索に費やされた。
葵は三つの点にこだわることとした。1,花言葉のエネルギーを何とかして参加者に届けるということ。2,夜の雰囲気を楽しんでもらうこと。3,20代の子たちのメンタルの悩みをちょっとでも解決してあげること。まぁ、自分だって、20代のメンタル面で悩む女子ではあるのだけれど。
十日ほど経って、段々と企画が固まってきた。参加者は事前に葵や琴音と顔合わせをする。その後、企画者側で各人にぴったりの夏の花を購入しておく。イベント当日は各人の心の痛みを共有してもらいながら、夜の雰囲気の中で花言葉を添えて花を渡す。大雑把にはそんな流れだ。
以降は具体的な準備と集客へと移った。会場は凛の紹介で、市内にあるお寺の講堂を借りられることとなった。お寺で夜のイベントを行うというのも、雰囲気としては良さそうに思えた。
集客用のSNSバナーは琴音の相方がデザインしてくれることとなった。彼は本職のデザイナーということもあって、すぐに良いものがあがってきた。
そのあたりが揃うと、葵は自分の知人から順に告知を図っていった。会場の規模やイベントの内容を考慮して、目標の人数は10人前後。
集まらなかったらどうしよう、という心配をする必要は全くなかった。その枠はすぐに、埋まってしまったからだ。想定より一人多い、11名の参加者。その全員が、女性だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「では、田中さん、今から動画を撮るので、ご自身のお名前と心の痛みについてお話しください。映像はもちろん、私たちだけしか見ないのでご安心くださいね」
閉店後に来店した花言葉ナイトの参加希望者に葵が説明をする。琴音はスマホでカメラをスタンバイさせている。
「こほん。では、言います。私は田中未空、25歳です。中学校の先生をしているんですけど。えっと、で、私の心の痛みは・・・古いまま変わろうとしない中学校の体質です。・・・こんなのでいいですか?」
「田中さん、ありがとうございます。具体的には・・・田中さんが色々と新しい取り組みを校内で提案しているのに、他の先生が耳を傾けないって感じなんでしょうかね」
「そうそう。まさにそうなんですよ~。他の先生たちもいい先生ばかりなんですけど、変わろうとは全然してくれなくて。いつも『田中さんの発想は面白いんだけどなぁ』って言って、結局、何も動かしてくれないんですよ」
「そっかそっか。ご苦労されてるんですね。では、そんな田中さんにぴったりの花言葉を選んできますので、楽しみにしておいてくださいね」
「は~い、楽しみにしてま~す」
そう言うと、その参加希望者はカバンを手に取って帰っていった。
葵は琴音の協力を仰ぎながら、そんなヒアリングを11名分、やり切った。
会場(お寺)や花屋さんとのコミュニケーションも密に取りながら、あっという間に数日の時間が経過する。
そしてとうとう、イベントの当日が訪れた。
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