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小説:コトリとアスカの異聞奇譚

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小説版<奈良の薬草と薬膳>の第二弾。植物の言葉の分かる琴音とその娘、明日香。彼女たちが出会う、日々の不思議なお話たち。
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記事一覧

小説:コトリとアスカの異聞奇譚 3-1

第三章「雨乞い龍と古木」 奈良県宇陀市室生にある真言宗の大本山、室生寺。奈良市から50分…

小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-16

 花言葉ナイトのイベントから一週間後の日曜日。晴れた午後。場所は奈良公園の飛火野(とびひ…

小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-15

「じゃあ、私の痛みについて話します」  参加者たちの輪に入りながら、葵は話をはじめる。チ…

小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-14

 2人目、3人目、4人目と、順番に心の痛みが語られていく。就職がまったく決まらないといっ…

小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-13

 軽い準備を終え、葵は改めて11人の前に立った。お寺の講堂は暗く静かで、中心にある灯が参加…

小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-12

 夜の19時前。その寺の門は半開きとなっており、地面には和風の照明がぽつりと置かれている…

小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-11

 イベントのタイトルが『花言葉ナイト ~Nacht der Floriographie~』へと決まってから、葵のプライベートの時間は企画のための情報収集と思索に費やされた。  葵は三つの点にこだわることとした。1,花言葉のエネルギーを何とかして参加者に届けるということ。2,夜の雰囲気を楽しんでもらうこと。3,20代の子たちのメンタルの悩みをちょっとでも解決してあげること。まぁ、自分だって、20代のメンタル面で悩む女子ではあるのだけれど。  十日ほど経って、段々と企画が固ま

小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-10

 土曜日の晩、閉店後。琴音はその日最後の薬草珈琲を淹れている。はとむぎ珈琲。ハトムギの種…

小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-9

 月曜日から火曜日にかけて、葵は「何か新しいことをしたい」という衝動に駆られていた。日曜…

小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-8

 明日香は周囲の草木にそっと触れながら、どんどん前に進んでいく。時々、その草木の前に立ち…

小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-7

 5歳の明日香は迷いなく、湖畔の木々の間を走っていく。あははははと楽しそうに笑いながら。…

小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-6

「じゃあ、私の話に移るね。・・・これまでも何度か、葵ちゃん、いつかは自分の店を持ちたいっ…

小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-5

「じゃあ、まず、葵ちゃんのほうからでいい?私のほうは、もしかしたら葵ちゃんの話によって変…

小説:コトリとアスカの異聞奇譚 2-4

 晴れた日曜日、14時。  琴音が指定した場所は、東大寺の北西すぐにある大仏池のほとりだった。そこは人も鹿もあまり訪れず、美しい湖畔を静かに楽しめる隠れスポットである。秋には紅葉が映え、冬が訪れる前にはイチョウの葉の黄色いカーペットがその場を美しく飾る。  少し早く着いたかなぁと思って葵がぶらぶらとしていると、そこで遊んでいた親子三人のファミリーが葵のほうへと近づいてくる。よく見ると、琴音の一家だった。 「葵ちゃん、遊ぼ~」  一番乗りは、琴音の娘の明日香だ。少し遅れて