フィリピン研修2023春(13)-民間企業の貢献
「国際協力の多様なあり方-NGO以外のアプローチ」(2)
「フィリピン研修」では(チャンスがある限り)日系企業を訪問しています。結局のところ、国際学部の学生全員が国際協力に関心を持っているわけではなく、卒業後、民間企業に就職する学生がほとんどだからです。なればこそ、海外で働くということはどういうことなのか、楽しいこと、難しいことも含め、海外で働く企業人に直接実体験を語ってもらうことは、将来の進路を考える上で重要な意義があります。ただし、民間企業が直接・間接、途上国の経済・社会発展に貢献しているという側面もあります。そこで、本日は「国際協力の多様なあり方」(2)として、Glico Philippines, incを訪問しました。
グリコはもちろんポッキー、プリッツなどで有名なお菓子メーカーで、海外でも事業展開している国際的企業です。ただし、グリコフィリピン社は2015 年に駐在員事務所を設立し、2019年に法人となったばかりの、フィリピンの日系企業としては新しい会社です。日本でおなじみの商品に加え、フィリピンでしか発売していない商品もあります。今回はそのフィリピン法人の責任者である三木孝司様(Country and Marketing Head)に、お話をうかがうことが出来ました。全て紹介できないのは残念ですが、ここでは3点ほど、とても勉強になったことを共有したいと思います。
まず、綿密な市場調査を行い、それに基づき商品企画・販売戦略を立てていることに、あらためて感銘を受けました。日本では当たり前のことですが、ここでも頑張ってやっています。
フィリピンの人口は約一億一千万人、間もなく日本の人口を越える「大市場」の様に思えますが、45ペソ(約110円)のポッキーを買える消費者は1600万人程度、市場としてはマレーシアより小さいとのこと。自社商品間の「カニバリゼーション」(Cannibalization、自社製品間の食い合い)を防ぐためにも、綿密な調査が必要であるとのことです。
ところで、この言葉が三木さんの口からすらっと出てきたときに、(一応社会調査に詳しいものとして)一瞬虚を突かれたような気がしました。マーケティング分野の専門用語(technical jargon)なのですが、失礼しました、三木さんはその道のプロでした。🙇
商品の認知度を上げるための広告では、フィリピンの広告業界 (The Media Specialists Association of the Philippines, MSAP)主催の有名な広告賞(The ICE Awards 2021)を受賞しています。また、フィリピン三越など他社とのコラボにも力を入れておられます。
2つ目が「パーパス」(社会の中での企業の存在意義)の重視。江崎グリコのパーパスがHealthier days, Wellbeing for life(すこやかな毎日、ゆたかな人生)です。なお、グリコフィリピン社にとっての「社会」とは、もちろん「フィリピン社会」という意味になります。
近年パーパス経営の大切さが謳われるようになってきたとはいえ、実は、私自身今一つその重要性が腑に落ちずにいました。例えば、従来から使われている「企業理念」と何が違うのか。
そのように感じていたため、まさかここフィリピンで、パーパスを重視した事業展開をしているとの説明を受けるとは予想していませんでした。この点についても、不意を突かれたような気がしましたが、今回の訪問で、少しその意義について理解することが出来たように思います。例えば、「ポッキー食べて健康って変ですよね?」と笑いながら、繊維質の多い新ポッキーを見せてくれました(→写真参照)。
ただし、グリコにとっての「すこやかな毎日、ゆたかな人生」とは、単なる健康のことではなく、より豊かな生活、笑顔あふれた生活にするものとしてのお菓子、というように理解するとわかりやすいかもしれません。なお、パーパスと親和性のある概念が、もちろんSDGsでありサステナビリティ概念です。
第3番目として、Zero Waste Programです。これはコロナ禍のためもあり賞味期限が近くなり売れ残りそうな商品を、廃棄するのではなく、施設や貧困地域に寄付し役立てようとするものです。具体的には、プリッツなどのお菓子をなんと29万個、50箇所の施設や自治体に配布したそうです。なお、配布は、NPO法人アクションのコーディネートのもと、配布先バランガイの役員やボランティアの皆さんが行いました。
国際協力には多様なあり方がありますが、営利事業であっても、あるきっかけが揃うと、社会貢献活動になってしまうという事例かもしれません。ただし、これは偶然の結果というよりは、前述の、フィリピン社会における存在意義を大切にするパーパス経営が、現地で約30年間活動をしてきたアクションの活動と自然に結びついていったという意味で、必然の結果であったようにも思われます。
これ以外にもいろいろなお話をうかがいました。製品開発上の苦労(熱帯で溶けないチョコレートの使用)、粉ミルクの販売、子育てブックレットの配布等々。学生の頭(舌?)に残ったのは美味しいポッキーの味だったかもしれませんが(ごちそうさまでした)。
ただし、三木さんに楽しそうにこれまでの事業展開を語っていただいたおかげて(本当はいろいろ苦労していることと思いますが)、学生達も、「仕事って面白い」、「こんな会社で働いてみたい」、「海外で働くことはやりがいがありそう」、などと思うようになったのではないでしょうか(私もマーケティングの大切さ、面白さを再確認しました!)。
今回はお忙しい中、我々のために時間をさいていただき、本当にありがとうございました。心よりお礼申し上げます。
(注) 写真の出典は、全て©2023 Aratameです。
(続く)
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