今再び目を向けたいアフガニスタン 映画『THE Breadwinner ブレッドウィナー』
監督:ノラ・トゥーミー
脚本:アニータ・ドロン
原作:デボラ・エリス 「生きのびるために」(さ・え・ら書房)
原題:THE BREADWINNER
2017年/93分/カナダ・アイルランド・ルクセンブルグ
breadwinnerという単語の意味をご存じでしょうか?
「稼ぎ手・大黒柱」という意味です。
本作のタイトルであるbreadwinner、この作品の中では11歳の女の子のパヴァーナが一家の大黒柱となり、その日自分と家族が食べる食料を得るために命がけの生活を送る様子が描かれています。
舞台となるのは2001年アメリカ同時多発テロ事件後のアフガニスタン、カブール。
戦争で片足を失った父親が突如タリバンに連行され、そこからパヴァーナと母親・姉・幼い弟の4人は生活に窮します。
ここで描かれているカブールは、男性がいないと買い物をするどころか外にも出られません。
女性が外を歩くには男性を伴っていなければいけない、という理不尽極まりない世界です。
パヴァーナは女性の姿では物を買うどころか、町をうろつくタリバン兵に捕まりそうになる恐怖を経験し、覚悟を決め美しい黒髪をばっさりと切ります。
ここから11歳の少女パヴァーナは少年の姿になり、Breadwinnerとして父親の代わりに家族を支えながら、父親との再会を目指していきます。
この物語で悲しいのは、少年の姿になったパヴァーナが、少女の姿のままでは物を売ってもらえないどころか、店の店主は話したくもないという感じだったのに対し、男の子だと認識されるとあっさりと買い物が出来るところです。
髪を切り、服装を変えただけで、こんなにも世界が変わるなんて・・・。
性別に強くこだわる社会が、ただ単に見た目を変えただけで、あっさりと見えないぶ厚い壁を越えてしまうところに、悲しさと皮肉を感じずにはいられませんでした。
また、”ふつうに”買い物ができたことに嬉しそうにするパヴァーナに、私たちの当たり前は当たり前ではない世界があることに改めて気付かされました。
作中、これでもか、というくらい女性の立場の弱さが強調されていました。
「女は家にいろ」「女に本を読ませるなんて」「女は目立たないように」「女に物は売れない」という刺々しい言葉のみならず、男の子だけが外でごく当たり前に遊んでいる様子からもそれが窺えました。
パヴァーナの元同級生の女の子も同じように男の子のフリをして、密かな希望を抱きながらお金を稼ぐ危険な生活を送っています。
原作者のカナダ人作家・デボラ・エリスは1997年、1999年の二度にわたって、パキスタンのアフガニスタン難民キャンプをおとずれているそうです。
その体験から、限りなく現実に近い映像がアニメーションとして描かれているのではないでしょうか。
2021年現在のアフガニスタンの現状はどうなのでしょう。米軍が撤退したことによるタリバンの復権から、おそろしいニュースも聞こえてきます。
平和な国で生まれ育った私には正直言って理解できない環境です。
パヴァーナの世界から見たら、夜にふらっと女性が一人でコンビニに行くのなんて信じられない自由でしょう。
何か少しでも楯突いたら捕らえられる恐怖に怯えた経験など私にはありません。
映画を観て感想を書いているだけの私はとてもお気楽な立場です。ただの傍観者です。アフガニスタンのために何かしようというアイディアも行動力もありません。自分の人生を生きるだけで精一杯です。
けれど、少しでも世界の目が過酷な状況に生きる人々に向くことは決してマイナスなことではないと信じています。