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「あたしは柴犬のアキ」23

 次の日、モモちゃんから誘いに来た。お庭から穴をくぐって道路にでると「クロのとこに行くわよ」モモちゃんはやる気満々であたしに言った。すぐに走り出したモモちゃんにあたしはついて行った。クロの家につくとモモちゃんが周囲をチェックしてあたしに目くばせをした。あたしはクロの目の前に移動した。クロはあたしとモモちゃんを見ながら何も言わない。しびれを切らしてモモちゃんが「わんっ」と挨拶しても何も言わない。あたしも何も言わなかった。いつまでも三人でにらめっこしていても仕方がない。モモちゃんは「帰ろう」と言った。モモちゃんが歩きだし、あたしも歩きだした瞬間に「わんっ」クロが吠えた。あたし達はもう一度クロの所に戻った。

 モモちゃんが話し出した。
「あたしはモモ、この子はアキちゃん。あなたはクロでしょ」
「そうだけど君たちどうして僕のところに来るの」
「何となく気になって来てるの。アキちゃんはあなたの白い眉毛のことが気になっているみたい。お友達にならない?」
「へぇー、僕のこの眉毛かっこいいでしょ。気に入ってるんだ。ぜひ友達になってよ。友達いないんだ」
あたしは一言もしゃべらないまま友達になった。
「アキちゃんも何か話しなさい」モモちゃんは命令口調で言った。
「あたしは柴犬のアキよ。あなたと同じね。色は違うけど」
「きみは僕と同じ足袋をはいているね。お揃いだね」
あたしは言葉に詰まった。よくみるとお揃いの足袋をはいている。うれしい気持ちがいっぱいになって何も返事できなくなりモモちゃんの後ろにそっと隠れた。

 「アキちゃんどうしたの?ふふーん。まあいいわ。今日はこれぐらいにしましょうか」モモちゃんはそう言うとクロに「また明日来るわね」と言って帰り道を歩き始めた。あたしは最後にバイバイの意味を込めて「わんっ」と小さな声で吠えた。クロも「わんっ」と返事をしてくれた。帰り道モモちゃんが「お揃いの足袋ね」と言って笑った。

 今日もお姉ちゃんが帰ってきたらいっぱい甘えよう。お姉ちゃん早くかえって来ないかな。早くかえって来ないかな。でもいつも通り先に帰ってきたのはお兄ちゃんだった。とりあえずお兄ちゃんに甘えてみよう。あたしは足に纒わりついてみた。
「アキィーー可愛い可愛い」
お兄ちゃんはいたく感動してあたしを可愛がりまくってくれた。ビスケットをくれたり、ジャーキーをくれたり。お兄ちゃんはあたしに甘えて欲しかったのね。

 お姉ちゃんが帰ってきた。甘えようと思ったけどお兄ちゃんが離さなかった。結局テレビを見る時のクッション代わりにされてしまった。散歩はお兄ちゃんが行くと言ってあたしを連れて行った。今日はクンクンさせてくれるかなと思ったけどいつもと一緒だった。寝る時はお兄ちゃんの布団に連れてこられた。あたしはお姉ちゃんのお布団に逃げる。お兄ちゃんが連れ戻す。このやりとりを何回か繰り返してお兄ちゃんは諦めた。だってお姉ちゃんと寝たいんですもの。後で寝室に来たお姉ちゃんの腕枕で顔をくっつけてぐっすりと寝たわ。

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