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『今、ここ に、月がある』

ここは、どこだ?
目を覚ますと、窓の外は海岸沿いの建物の灯り。
暗い島影が、重く垂れ下がった上弦の月に照らされ浮かび上がっている。
ここは、あの海峡か?
35年前、バイクをフェリーに乗せて渡った。

同じ海を今、バスに乗り橋の上を渡っている。
「時は流れたぞ」「昔には戻れない」
「今、お前は、昔とは違うお前になっている」
「さあ、その事に気が付け」
「その事実を全て、丸ごと受け入れろ」
月が、そう言っている。

「もう期は熟したぞ」「さあ、受取れ」
月は、そう続けて言う。

月は、
完熟し切った果実が今にも枝から落ちそうな、
産み落とされたばかりの卵を割り落とすような、
暗く丸い輪郭の下に光を蓄えた、
赤黄色い上弦の月。

俺は口を大きく開き、
月の雫を、
いや、月を丸ごと飲み込んだ。

今、俺は、熟した期を受け入れて、
月と供に在る。
今までため込み、月に預けていたものを
全て受け取り、
今、ここ を生きている。

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