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「訪ね来る神々」(水彩画:豊穣の神)
私は今、イーゼルに向かい絵を描いている。
絵を描く。ただ、それだけが私の日常。
私は、鬱神に憑かれている。
妻と離婚し、家を売って、実家に戻った。
喧嘩が絶えなかった訳ではない。
むしろ、仲は良かった方ではなかろうか?
家族の健康の問題で、お互い苦労は多かった。
二人の息子が成長し、家を出て数年後、
夫婦は、まるで
あらかじめセットされたタイマーが切れるかのように、
自然に離れていった。
何の言い争いも無かった。
私は実家に戻ったが、故郷の町はすっかり変わり、
一人 家を守る母は、年老いていた。
やっと あり着いた仕事にも馴染めず、結局
このざまだ。
ただ、絵を描く。日がな一日。
思えば、家を売りに出した時、
二人の神が、家に訪ねて来た。
それぞれ人の姿をし、それぞれ別の用事でやって来た。
二人の神も、それぞれに、致し方ない事情で、
連れ添いの女神と別れていた。
一人目は、水の神。
いわゆる、トイレの神様だ。
水の神は言う。
「あ~、誰か良き女神はおらぬものか?」
別の日に、二人目の神が訪ねて来た。
金目の物を買い付ける、いわゆる財の神だ。
財の神は言う。
「わしは、一人でおる事に決めたぞよ」
爽やかな、笑顔でさえあった。
「さて、自分はどうしよう?」
筆を置いたまま、ため息をつくと
「お前は、絵は描かぬのか?」
傍らから声がする。
見ると、そこには絵の神がうずくまっていた。
絵の神は、横目で私を見上げながら言った。
「お前、ため息ばかりつきおって。
あと一人、間違いなくやって来る神がおるぞよ」
「‥‥えっ!?」と私が驚くと、
ニヤッと笑って絵の神は言う。
「死神じゃよ」
私は筆を取った。