【リトアニアへの旅の追憶】
72年 アメリカ ジョナス・メカス監督
主観映像はその名の通り、カメラを持つ人物の視点だ。監督本人が故郷リトアニアに帰る様子を克明にとらえたのが本作である。
単なるドキュメンタリーを軽く超えるどころか、映画とは何かとまで突き付ける。キャメラが持つ感情について知る。これは旅を通した、教材なのだ。
ジョナス・メカスはアメリカ、ニューヨークのアンダーグラウンドシーンで知らない人はいない。日常の様子をひたすらカメラに残し、日記形式をいち早く取り入れた人物である。「街を歩けばメカス」、とは決して言い過ぎではないと思う(私が考えただけだが)。
映画も日記形式のスタイルを使用している。リトアニアの小さな村と、年老いた母親。友人、子供たち。ボレックスの画面に所狭しと収まる風景はどこまでも誠実だ。そこには作家本人の、ノスタルジックな感情すら超える強い衝動がある。
孤高がこんなにも似合う作家は、私が知る限りいない。
きっと初めて映画が誕生した頃も、似ていたのかもしれない。身近にいる家族や友人を映像に残す。まさに映画の原点に返った作品と言える。
全力で走る村の子供たちに、「そうだ。走れ」とメカスは語る。それは亡命した一人の映画作家の、自身への警告だろう。異国の地ニューヨークで無心に走り続けた男の、とびっきり熱いソウルである。