上野修嗣

うえのなおつぐ 1980.6.16  石川県生まれ  バンタン映画映像学院卒業 インディーズ作家、映像制作 フリーマガジン「TANPENS POCKET」創刊号「黒猫を探して」掲載

上野修嗣

うえのなおつぐ 1980.6.16  石川県生まれ  バンタン映画映像学院卒業 インディーズ作家、映像制作 フリーマガジン「TANPENS POCKET」創刊号「黒猫を探して」掲載

マガジン

  • 上野キネマ館

    おすすめ映画レビュー、映画エッセイ、あるいはシナリオ向上に対しての考察。無料上映中。全席指定なし。

  • 創刊サンデージャーナル

    紙の出版物が低迷する中、無謀にも新たな日曜紙が誕生した。その名も【サンデージャーナル】。日常に潜むとんでもない話を読者から募集、独自に編纂した夕刊紙である。創刊に向けて、全4話をお送りする。トップを飾るのは、ある村で起きた不可解な事故。隠された真相とは? 抱腹絶倒、令和の新文学。

  • ターニャの選択

    ロシアから逃れた美女オルガとナタリアは、ある日本人男性から犯罪計画を聞く。 ウクライナ人女性ターニャもまた、紛争から逃れて日本へやってきた。彼女たちを待ち受ける驚愕の運命とは……ノンストップ・クライムノベル。

  • 今日も運転しなかった

    映画脚本を郵送するまでの自伝的エッセイです。

最近の記事

【掌編】通学路 3

「ハピラインに乗るのかな。何か遥々ね」  咲奈が言った。気付くと、この人まで口調が変わっている。なぜだろう。北陸らしくない、妙な響き。茶の間での会話を伝えたせいで感化したのかもしれない。  学校までが遠かった。これは私の会話力のなさに起因している。咲奈のように言葉が簡単じゃないし、近くのひまわり通りも今朝だけは蛇のお腹に見えた。長く湿った舌で圧してくる。手のひらで額の汗を拭っても、ひたすら滴り落ちてきた。 「私さ……」  最初の一言が、重い。こっちまで変な言い方、プチ標準にな

    • 【掌編】通学路 2

       実家に戻ってからの兄は実年齢より上のような気がした。日がな一日、仕事らしいことをしている。自分で撮った映像を編集している。他は何も知らない。年齢差もあって、会話が弾むことは少なかった。  茶の間に男性何人かの声が飛ぶと、部屋へ避難した。彼らが帰る頃を見計らい、申し訳程度にドアを開け、声が途絶えたことを確認する。そんな性格だからか、母も助言めいたことは言わない。「もっと妹らしく」なんて口が裂けても言えない。昔から数えきれないほど、半開きのドアを採用してきた。兄の友人たちは、私

      • 【掌編】通学路 1

         睦美さんの腕は硬くて、綺麗だ。それが第一印象だった。  ほぼ真っ白で、日に焼ける気配が微塵もない。なぜ硬いかというと、バドミントン部で鍛えた跡があるから。兄もその腕を誇りにしていた。 「一緒に行くか」  誘いを受けた瞬間、即座に断る気でいた。 「あいつ急に言い出したんだよ。車で帰りたいってさ」  この他人事みたいな、地方都市とは思えないような兄の言い草。なるほど、一度都会に出ると口調まで変わってしまう。一八まで、同じキッチンにいた家族なのに。  金沢まで兄が運転、助手席に睦

        • フリーマガジン「TANPENS POCKET」が創刊されました。小さな小さな文学賞の結果が載っています。私の「黒猫を探して」は優秀賞を頂きました。神戸のライブハウス「チキンジョージ」他、関西で見かけたらぜひ。

        マガジン

        • 上野キネマ館
          14本
        • 創刊サンデージャーナル
          10本
        • ターニャの選択
          3本
          ¥590
        • 今日も運転しなかった
          12本

        記事

          【童話】おれはライオン

           おれの名前は、タロウだ。  遠い国で生まれて、この村にやってきた。仕事は、村のみんなといっしょにしてるぞ。これから、野菜を運ぶんだ。ぐるぐる腕を回して、力こぶを作って、おいしい野菜を運ぶのさ。 「お~い、タロウ。聞こえるか」  おや、村のじいさんの大きな声が聞こえるぞ。 「つかれたろ。ちょっと休んでいいぞ」  じいさんは、向こうの川の水がうまいことを知っている。そこはキツネの末吉と、よくあそんだところなんだ。  あいつとは、川近くの草むらでこんなことを話した。  今日みたい

          【童話】おれはライオン

          裸の王様にならないために

          映画やテレビドラマの感想をよく読む。思わず頷くほど秀逸な文、ただの言いがかりな文……と、実に面白い。 その作品を見ていないのに、どうしてレビューを熱心に読むかというと、やはり人の本音が聞きたいと思うから。作り手は低評価にだんまりを決め込むのか、真摯に受け止めるのか。もし前者であれば、ずっと勘違いを続ける恐れもある。 ところで、いい脚本ってなんだろう。 テレビドラマの場合、チャンネルを回している途中、思わず引き込まれて手が止まる。それくらい面白い会話だったら、間違いなくいい

          裸の王様にならないために

          また猫に助けられた話

          16年ぶりのコンテスト入選は嬉しかった。 9月5日、「小さな小さな文学賞」のHPをそっと覗くと、自分の名前が。 兵庫県明石市のBekko Books主催、アパレルブランドThee Trioとのコラボレーション企画だった。私を含む入選作が一冊の写真集になるそうで、今から心待ちにしている。 「街を歩く」をテーマに書いた作品「黒猫を探して」は、その名の通り愛猫が逃げ出してしまった話。猫好きにとって、突然いなくなるのは大事件であり、実体験を交えて綴っている。この物語の黒猫ルイー

          また猫に助けられた話

          入選しました。小さな小さな文学賞VOL.1「黒猫を探して」 https://www.bekkobooks.com/chisanachisanabungakusho-1

          入選しました。小さな小さな文学賞VOL.1「黒猫を探して」 https://www.bekkobooks.com/chisanachisanabungakusho-1

          チャイナタウンに行こう

           映画『チャイナタウン』の脚本で有名なロバート・タウン氏が亡くなった。  私がこの映画を見たのは7年前、洋画ファンを自称している割に遅い鑑賞だった。  当時は横浜市大倉山で無職、いや正確には何かをしようとしている男で、今振り返っても溜息しか出ない。近くの蔦屋へ足を運び、旧作コーナーから2、3本手に取る。晴れの日、小雨の日、どしゃぶりの日、関係なくそれを繰り返す。どんなに空腹でも、財布に小銭すらなくても、映画だけはノートパソコンで再生できる。古い映画からのカロリーで空っぽの胃を

          チャイナタウンに行こう

          夏に見ないと損する10本の映画

          往年のフランス映画から、元祖ホラー映画、さらには昭和のえちえちまで、蒸し暑い季節を乗り越えるために選んでみた。 グラン・ブルー(1988 仏・伊)     水の中のナイフ(1962 ポーランド) 太陽がいっぱい(1960 仏・伊) 冒険者たち (1967 仏・伊)     沈黙の世界(1956 仏・伊) 気狂いピエロ(1965 仏・伊) ㊙色情めす市場(1974 日) カリガリ博士(1920 独) 悪魔のいけにえ(1974 米) アビス(1989 米)

          夏に見ないと損する10本の映画

          キーウからの狙撃手

           小説推理新人賞に送ろうと思ったのは、昨年の10月過ぎだったと思う。  元々あった30枚の短編に、ページを足していくことから始めた。  前半はロシア人女性二人が宝石強盗を一掃する話。後半は、キーウからやってきた女性が日本で狙撃銃を持つまでの話(要するに、バイオレンス・アクション)。  物語のヒントは、ある日飛び込んできた一枚の写真からだった。  ウクライナの射撃場で連日、若い女の子が狙撃の訓練を受けている記事を読む。  そこには、ゲームでもアニメでもなく、現実に銃を構える子が

          キーウからの狙撃手

          鋼の夜が明けて

           『ストレンジ・デイズ』を見たのは高校生の夏だった。  1999年のロスが舞台のサスペンス映画で、脚本はジェームズ・キャメロン。監督はキャサリン・ビグロー。殺人事件を記録したディスクをめぐるハードボイルドで、けばけばしい画面が印象に残っている。  レンタルビデオで一度見た切りで、長い間この映画を忘れていた。  穴が開くほどカレンダーを見る。2月は早い。それを裏付ける出来事が訪れていた。  最初に「アウトサイダー文学賞」の文字を見た瞬間、自分の好きな分野で書けるかもと思った。

          鋼の夜が明けて

          「僕ハズ」を載せた本当の理由

          創作大賞に送った『僕は最高のハズバンド』について、お話したいと思う。 まさか真夏に、アイスコーヒーを飲み終えた直後に書くとは思いもしなかった。この物語は昨年、真冬の最も寒い時期に書いている。重ね着によって発する肩凝りはもちろん、朝晩の凄まじい冷えと変わりやすい天候の下、PC画面に綴った結果だ。今日の外の気温とは30℃近く離れていた。   「ラブストーリー」という字を見て最初に浮かんだのは、芸能人カップルの話だった。自分の得意ジャンルではないし、明るい話も初めてだった。皆さんは

          「僕ハズ」を載せた本当の理由

          シナリオコンクールに送った頃のこと

          テレビドラマを書こうと思い立ったのは2年前。それまで自分には無縁の世界だと思っていた。このまま未開発の映画脚本を温めても始まらないし、新たにストックが必要だと感じていた。書かないで待つか、書いて送るか。後者を選ぶと、少なくとも道はわずかに開く(たぶん)。私は無地のレポート用紙に、登場人物と設定をメモした。募集要領をもう一度読む。テーマは「家族」。後はページ数さえ守れば自由だった。 誰かの脚本を追いかけようとは思わなかった。これからプロを目指す者にとって、それが普通だと思う。私

          シナリオコンクールに送った頃のこと

          ある男の出所 オリジナル脚本「さよなら、フリッツ・ラングより」

          〇路上(夜)    コンクリートに倒れた二人の男。    二人を見下ろす天野徹也(39)、汗を拭う。    徹也の上に監視カメラが一台設置。    駆けつける一台のパトカー。    徹也、パトカーに両手を挙げる。      〇刑務所前    高い塀の横を歩く徹也。    行き交う車、バイク。無言ですれ違う人々。    徹也、車のクラクションに驚く。    速度を上げて走り去る車。 徹也M「兄貴、久しぶり。この手紙、とある映画館に届けたばかりなんだ。  きっと今頃は作業場で読ん

          ある男の出所 オリジナル脚本「さよなら、フリッツ・ラングより」

          鋼の夜 10

           大倉山駅前の光景は鮮明だ。  例えば、拡声器を片手に長々と演説する男性を見ている。足を止める者はいない。まして一票投じようなんて思っていない。誰もが素通りし、腹の中で「うるさい」と思っている。  一度だけ話しかけたことがあった。男性は驚いていた。自分の手から武器が去っていることに気付いた目だった。俺が横から拡声器を取り上げ、嫌がる顔を尻目に「帰れ、おっさん」と挑発したせいだ。  現政権に不満があると駅前に出た結果、歩く市民の耳を塞いでいた。何が反対だ。何が反対だ。てめえらも

          鋼の夜 10