上野修嗣
おすすめ映画レビュー、映画エッセイ、あるいはシナリオ向上に対しての考察。無料上映中。全席指定なし。
紙の出版物が低迷する中、無謀にも新たな日曜紙が誕生した。その名も【サンデージャーナル】。日常に潜むとんでもない話を読者から募集、独自に編纂した夕刊紙である。創刊に向けて、全4話をお送りする。トップを飾るのは、ある村で起きた不可解な事故。隠された真相とは? 抱腹絶倒、令和の新文学。
ロシアから逃れた美女オルガとナタリアは、ある日本人男性から犯罪計画を聞く。 ウクライナ人女性ターニャもまた、紛争から逃れて日本へやってきた。彼女たちを待ち受ける驚愕の運命とは……ノンストップ・クライムノベル。
映画脚本を郵送するまでの自伝的エッセイです。
映画『チャイナタウン』の脚本で有名なロバート・タウン氏が亡くなった。 私がこの映画を見たのは7年前、洋画ファンを自称している割に遅い鑑賞だった。 当時は横浜…
往年のフランス映画から、元祖ホラー映画、さらには昭和のえちえちまで、蒸し暑い季節を乗り越えるために選んでみた。 グラン・ブルー(1988 仏・伊) 水の…
小説推理新人賞に送ろうと思ったのは、昨年の10月過ぎだったと思う。 元々あった30枚の短編に、ページを足していくことから始めた。 前半はロシア人女性二人が宝…
『ストレンジ・デイズ』を見たのは高校生の夏だった。 1999年のロスが舞台のサスペンス映画で、脚本はジェームズ・キャメロン。監督はキャサリン・ビグロー。殺人…
創作大賞に送った『僕は最高のハズバンド』について、お話したいと思う。 まさか真夏に、アイスコーヒーを飲み終えた直後に書くとは思いもしなかった。この物語は昨年、真…
テレビドラマを書こうと思い立ったのは2年前。それまで自分には無縁の世界だと思っていた。このまま未開発の映画脚本を温めても始まらないし、新たにストックが必要だと感…
〇路上(夜) コンクリートに倒れた二人の男。 二人を見下ろす天野徹也(39)、汗を拭う。 徹也の上に監視カメラが一台設置。 駆けつける一台の…
大倉山駅前の光景は鮮明だ。 例えば、拡声器を片手に長々と演説する男性を見ている。足を止める者はいない。まして一票投じようなんて思っていない。誰もが素通りし、…
「クソ野郎め」 部屋の扉を開けた瞬間、死体が飛び込んで来た。 ユーリは何も言わず尾高の手から血まみれのナイフを奪った。 自ら手首と首を切ったらしかった。フロー…
部屋にインターネットは引いていなかった。 ガラケーを使って数年経過していた。どうしても知りたい情報は、綱島の快活CLUBまで足を延ばした。通信費を抑えるため…
ノートPCの電源を入れた。 「この画面で『天国の門』を見た」 「……死のうとしたんですか」 「映画だよ。世紀の大赤字映画。会社潰したくらい大損してる。だが悪くな…
図々しく俺の部屋にインターフォンを鳴らしたのは尾高だった。画面越しに相当な焦りを感じた。殺人犯に追いかけ回されたのか、すぐに開けてほしいと訴えていた。 部屋…
三十歳を過ぎた頃、俺と土井は派遣労働者だった。過去形を使ったわけは二度と戻らないとわかっているからだ。どこの会社も俺たちのような特別に能がない人間を集めている…
ここでシナリオ雑誌に掲載した作品を載せたい。編集の仕事を始める前、思わず目に留めたラブストーリーだ。 作者と連絡が付かないため、編集部が呼び掛けていた。コン…
トイレ近くの席でチキンを食べながら、不躾な目を向けた。どう見ても二十三歳以下の、黒髪の野郎だった。スニーカー集めが趣味、と顔に書いてある。 「アイスランドの映…
2024年9月7日 13:23
入選しました。小さな小さな文学賞VOL.1「黒猫を探して」https://www.bekkobooks.com/chisanachisanabungakusho-1
2024年7月24日 17:10
映画『チャイナタウン』の脚本で有名なロバート・タウン氏が亡くなった。 私がこの映画を見たのは7年前、洋画ファンを自称している割に遅い鑑賞だった。 当時は横浜市大倉山で無職、いや正確には何かをしようとしている男で、今振り返っても溜息しか出ない。近くの蔦屋へ足を運び、旧作コーナーから2、3本手に取る。晴れの日、小雨の日、どしゃぶりの日、関係なくそれを繰り返す。どんなに空腹でも、財布に小銭すらなく
2024年7月23日 16:26
往年のフランス映画から、元祖ホラー映画、さらには昭和のえちえちまで、蒸し暑い季節を乗り越えるために選んでみた。グラン・ブルー(1988 仏・伊) 水の中のナイフ(1962 ポーランド)太陽がいっぱい(1960 仏・伊)冒険者たち (1967 仏・伊) 沈黙の世界(1956 仏・伊)気狂いピエロ(1965 仏・伊)㊙色情めす市場(1974 日)カリガリ博士
2024年7月22日 16:11
小説推理新人賞に送ろうと思ったのは、昨年の10月過ぎだったと思う。 元々あった30枚の短編に、ページを足していくことから始めた。 前半はロシア人女性二人が宝石強盗を一掃する話。後半は、キーウからやってきた女性が日本で狙撃銃を持つまでの話(要するに、バイオレンス・アクション)。 物語のヒントは、ある日飛び込んできた一枚の写真からだった。 ウクライナの射撃場で連日、若い女の子が狙撃の訓練を受
2024年7月21日 12:21
『ストレンジ・デイズ』を見たのは高校生の夏だった。 1999年のロスが舞台のサスペンス映画で、脚本はジェームズ・キャメロン。監督はキャサリン・ビグロー。殺人事件を記録したディスクをめぐるハードボイルドで、けばけばしい画面が印象に残っている。 レンタルビデオで一度見た切りで、長い間この映画を忘れていた。 穴が開くほどカレンダーを見る。2月は早い。それを裏付ける出来事が訪れていた。 最初に「
2024年7月20日 15:24
創作大賞に送った『僕は最高のハズバンド』について、お話したいと思う。まさか真夏に、アイスコーヒーを飲み終えた直後に書くとは思いもしなかった。この物語は昨年、真冬の最も寒い時期に書いている。重ね着によって発する肩凝りはもちろん、朝晩の凄まじい冷えと変わりやすい天候の下、PC画面に綴った結果だ。今日の外の気温とは30℃近く離れていた。 「ラブストーリー」という字を見て最初に浮かんだのは、芸能人カ
2024年7月19日 13:17
テレビドラマを書こうと思い立ったのは2年前。それまで自分には無縁の世界だと思っていた。このまま未開発の映画脚本を温めても始まらないし、新たにストックが必要だと感じていた。書かないで待つか、書いて送るか。後者を選ぶと、少なくとも道はわずかに開く(たぶん)。私は無地のレポート用紙に、登場人物と設定をメモした。募集要領をもう一度読む。テーマは「家族」。後はページ数さえ守れば自由だった。誰かの脚本を追い
2024年7月18日 13:38
〇路上(夜) コンクリートに倒れた二人の男。 二人を見下ろす天野徹也(39)、汗を拭う。 徹也の上に監視カメラが一台設置。 駆けつける一台のパトカー。 徹也、パトカーに両手を挙げる。 〇刑務所前 高い塀の横を歩く徹也。 行き交う車、バイク。無言ですれ違う人々。 徹也、車のクラクションに驚く。 速度を上げて走り去る車。徹也M「兄貴、久
2024年7月17日 12:22
大倉山駅前の光景は鮮明だ。 例えば、拡声器を片手に長々と演説する男性を見ている。足を止める者はいない。まして一票投じようなんて思っていない。誰もが素通りし、腹の中で「うるさい」と思っている。 一度だけ話しかけたことがあった。男性は驚いていた。自分の手から武器が去っていることに気付いた目だった。俺が横から拡声器を取り上げ、嫌がる顔を尻目に「帰れ、おっさん」と挑発したせいだ。 現政権に不満があ
2024年7月16日 12:58
「クソ野郎め」 部屋の扉を開けた瞬間、死体が飛び込んで来た。ユーリは何も言わず尾高の手から血まみれのナイフを奪った。 自ら手首と首を切ったらしかった。フローリングの床は赤く浸食していた。俺の部屋には果物ナイフしかないが、相当に深く切り刻んだようだった。 出かける前、忠告したことが無駄だった。ここでくたばると、原状回復する業者の手が忙しい。たかが自傷だと思ったのか、まさかこんなに血が飛び出す
2024年7月15日 13:10
部屋にインターネットは引いていなかった。 ガラケーを使って数年経過していた。どうしても知りたい情報は、綱島の快活CLUBまで足を延ばした。通信費を抑えるため、と最初は思っていた。しかし事態がこうなると、知らない情報が増える一方だった。 カーテンを閉め切って生活していると、気が変になってくる。部屋での仕事とはいえ、自然光が恋しい。駅前の坂道に適さない稼業だと痛感した。「引っ越せばいいじゃん」
2024年7月14日 15:45
ノートPCの電源を入れた。「この画面で『天国の門』を見た」「……死のうとしたんですか」「映画だよ。世紀の大赤字映画。会社潰したくらい大損してる。だが悪くない映画だった。およそ四時間近く、さっきのお前と同じように水飲みながら見たんだよ」 水道水ではなかった。横浜市の水は苦い。エビアンを口にしながらの鑑賞だった。 チミノは次の映画も物議を呼んでいる。それについては、映像を見た後でいいと思っ
2024年7月13日 11:58
図々しく俺の部屋にインターフォンを鳴らしたのは尾高だった。画面越しに相当な焦りを感じた。殺人犯に追いかけ回されたのか、すぐに開けてほしいと訴えていた。 部屋に入れてやった。このまま玄関で言い訳を聞く暇などなかった。「……お願いがあるんです。俺もアイスランドに行きたいんですよ。マジ、頼みますよ、お兄さん。ね? いいでしょう。土井さんより役に立ちますよ。わかりますか、え、わからない? 勘弁っすよ
2024年7月12日 13:08
三十歳を過ぎた頃、俺と土井は派遣労働者だった。過去形を使ったわけは二度と戻らないとわかっているからだ。どこの会社も俺たちのような特別に能がない人間を集めている。 都市部はもちろん、田舎でさえ人力が事欠かない。困った統計学によると、人手不足をいいことに低賃金、低サービスを謳って現場に流しこむ業者が増えている。 土井とは今と同じ暑い季節に出会っている。汗を拭けば電車代が飛び、また翌日の帰りには喉
2024年7月11日 13:11
ここでシナリオ雑誌に掲載した作品を載せたい。編集の仕事を始める前、思わず目に留めたラブストーリーだ。 作者と連絡が付かないため、編集部が呼び掛けていた。コンクールの佳作入選作で、思わず最後まで読み切ったことを記憶している。 物語の主人公はテレビ司会者。この日のゲストは、付き合っている恋人の父親。黒いマントを羽織っての登場だった。 〇テレビ局・番組スタジオ(夜) トークライブ『グッド
2024年7月10日 12:05
トイレ近くの席でチキンを食べながら、不躾な目を向けた。どう見ても二十三歳以下の、黒髪の野郎だった。スニーカー集めが趣味、と顔に書いてある。「アイスランドの映像、見ました? あれ、俺が送ったんですよ」 俺たちが席を着くなり話し始めると、最初の視線もなくなった。 後から次々と客足が店内に入って来た。入口付近のカップルは、俺たち二人を見て思わず目を逸らした。土井は背が高い。坊主頭を含めてどう見て