また、回想の読書
実は若いころから翻訳のミステリーやスパイ小説も大好きだった。
SFや探偵小説との接触は、中学時代からだったが、翻訳ミステリやハードボイルド、スパイ小説等は学生時代あたりから、その面白さに開眼したと記憶。
俺が中学時代、うろ覚えだが「世界十大探偵小説」というリストがあった。記憶をたどっても、10点は思い出せないし、間違いがあるかもしらん。
もしかしたら、コナン・ドイルのみ、もう一点「緋色の研究」が入っていた可能性もあるが、どっちでもいい話。以下羅列。
①エドガー・ア・ランポー「モルグ街の殺人事件」
②コナン・ドイル「バスカヴィル家の犬」
③ヴァン・ダイン「グリーン家殺人事件」
④アガサ・クリスティ「アクロイド殺し」
⑤エラリー・クイーン「Yの悲劇」
⑥F.W.クロフツ「樽」
⑦イーデン・フィルポッツ「闇からの声」
⑧ウィリアム・アイリッシュ「幻の女」
⑨ウイルキー・コリンズ「月長石」
で「月長石」以外は、みな読んだ。
ポーやドイルの作品はだいたい目を通しているはずだ。
ポーの「黄金虫」やドイルの「まだらの紐」は記憶も鮮明。
ついでに、カバーイラストはChatGPTによる「黄金虫」。
ヴァン・ダインは「僧正殺人事件」も大のお気に入り。探偵ファイロ・ヴァンスの衒学趣味や車が凄い。クリスティやクイーンは数冊しか読んでいないが「Yの悲劇」は傑作だろう。フィルポッツの「闇からの声」にもすっかりはまった。
アメリカのハードボイルドはダシール・ハメットが、ずっと俺のNo.1。
好みではいえば「血の収穫」と「ガラスの鍵」。「マルタの鷹」には波長が合わない。「血の収穫」のコンチネンタル・オプは数多のハードボイルドの原型。「ガラスの鍵」の主役、ばくち打ちネド・ボーモンもいい。ダークで大人な恋愛模様が刺さる。この2冊は、なんど読み返しても飽きない。
レイモンド・チャンドラーのフィリップ・マーロウ(まるで、センチメンタル・オプ)にはあまりハマらなかったが、「長いお別れ」は、キザっぷりが決まっていると思った。たしかに村上春樹好みかもしれない。
俺は、チャンドラーよりロス・マクドナルドが性に合った。
「さむけ」「人の死にゆく道」「縞模様の霊柩車」等々、マーロウよりリュウ・アーチャーだな。アメリカ西海岸の描き方がなんともいえない。
スパイ小説といえば、なんといってもジョン・ル・カレ。
「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」や「スクールボーイ閣下」等は文学作品として読んでもずば抜けている。「ドイツの小さな町」や「鏡の国の戦争」も良かった。冷戦文学だ。
そんなわけで、ル・カレの倅ニック・ハーカウェイも贔屓にしている。
スパイ小説といえば、レン・デイトンの「ベルリンの葬送」は記憶から脱落。007のイアン・フレミングも有名だがそれほどは読んでいないし、読んでも記憶に残っていない。唯一「ゴールドフィンガー」冒頭、ボンドがフロリダのストーンクラブ(石蟹)を食べるシーンはモノを食うシーンの最高峰で、思い出しても垂涎。
スパイ小説では、エリック・アンブラーが好みの作家で、「ドクター・フリゴの決断」は愛読書。「ドクター・フリゴ~」以外は、読んでも内容忘却。
冒険小説なら、ギャビン・ライアル。
ライアルは名作といわれる「深夜+1」もさることながら、「本番台本」が素晴らしい。
完璧な映画シナリオのような冒険小説で、英国流の渋いユーモアが冴えまくり。じつに面白い。「ドクター・フリゴの決断」と同じく西インド諸島が舞台で異国情緒も満載。
ディック・フランシスの競馬ミステリーはほとんど読んでいないが、「標的」は偏愛の一冊。この小説中の「サバイバルは心の持ち方の問題である」という一句は、わが人生の標語だ。
警察小説は、日本の警察小説はわりと読むが、本場アメリカの警察小説(エド・マクベイン等)はあまり知らない。ただし、ジョゼフ・ウォンボーの警察小説は、別格のリアリティ。なにせウォンボーは、ロスアンゼルス市警で14年間の勤務実績がある。
とくに「デルタ・スター警視」は出色の面白さで、この小説に比べると、本邦の警察小説はやや浅くて色あせる。
と、思いおこせば、とめどなく作家や小説名が沸き上がるが、手元に本が残っているのは、「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」や「スクールボーイ閣下」と「本番台本」と「ドクター・フリゴの決断」と「デルタ・スター警視」くらいなのであった。
そういえば、リチャード・スタークの悪党パーカー「殺戮の月」やミッキー・スピレーンの「エレクション・セット」はなぜか本が残っている。
とくに「殺戮の月」は、悪党パーカーシリーズの傑作だと思う。
こうして、翻訳のエンタメを雑読する人生だった。
今は、それらの本も手元にはほとんど残っていなくて、回想するのみ。
以上、爺さんの繰り言でした。