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『嶋浩一郎&渡邉康太郎の、一見役に立たない、けれども大事な読書会2023〜第二回「硬い柔らかい」』からの脱線


Introduction

2023年7月23日(日)に青山ブックセンター本店で開催された、『嶋浩一郎&渡邉康太郎の、一見役に立たない、けれども大事な読書会2023〜』シリーズ。第2回のテーマは「硬い柔らかい」。「脱線」と称して、連想されたPodcast・曲・本などのコンテンツとともに振り返る。


※第一回「長い短い」のnote記事はこちら。

今回の選書

今回は、互いに3冊ずつの選書。

嶋浩一郎さん

川上和人『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』

北尾トロ・えのきどいちろう『愛と情熱の山田うどん』

カルロ・ロヴェッリ『すごい物理学講義』

渡邉康太郎さん

鴻巣友季子 『翻訳ってなんだろう?』

三木成夫『内臓とこころ』

エツィオ・マンズィーニ『日々の政治』

メモと脱線

引用内に記した読書会のメモとともに、連想する脱線を重ねる。

オープニング

全国の硬いと柔らかいファン
いろはすのペットボトル柔らかすぎでは問題
そもそも硬いってなんだっけ?
樹脂などの素材が次第に固まる
からだと頭
忘れられない硬い頭
思考の柔らかさ
次回第3回の開催は、F1が裏番組。
速いと遅いがテーマだと、速いファンはそっち行っちゃいそう
選書はどのように格闘したか?
キングオブ固くて柔らかいはトイレットペーパー
繊維の結びつきと水への流れやすさ
JIS規格の基準決めた人も偉い(笑)
心のポッケにトイレットペーパーを
『すごい物理学講義』は、井上ひさし的、『ホーキング、宇宙を語る』的なのでは?
『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』は、筋肉と骨では。『内臓とこころ』と近そう。

全国の硬いと柔らかいファンの皆さんようこそ、という安定の掴み。
そもそも「硬い」とはどういうことか・何があるか、から考え始め、相手の選書の分析へと移行する、滑らかな幕開け。

鴻巣友季子 『翻訳ってなんだろう?』

マーガレット・アトウッドのディストピア小説
翻訳者は「作品そのものを書く。」「翻訳とは"体を張った読書"」(p.11)
脱線というが、そもそも線路がない(笑)
レーモン・クノー『文体練習』
99回語りなおす
ラテン語の叙述的に、など。古文に移し替える
言葉だけでなくカルチャーも訳す
音と意味の優先順位。
りんごをみかんに変えることを厭わない
意味だけだと硬い。意図の柔らかさも必要。
アリスのうさぎは、アオサギの役割(※ネタバレ厳禁)
Pig or fig
滑稽さが大事。
仏陀にゆかりの菩提樹はイチジク属。気づかないよねー!(笑)
『翻訳、一期一会』
横尾訳。人生を投影して意味がわからない
溺れてもいい。習いたくない。『横尾忠則 アホになる修行の極意。』
どれだけ歩けば個人を越えて個になれるのか。
大江健三郎の『個人的な体験』と響き合う
超訳。答えなんて放っておけ。
町田康『口訳 古事記』
アマテラス「マジっすか」
神武天皇「どついてこい」
ヤンキーレベルが高いほうが歴史に残るのでは

鴻巣さんといえば、まず思い出すのが、Takram Radioへのゲスト出演。番組でも語られた、『不思議の国のアリス』における「Did you say "pig" or "fig"?」というダジャレの翻訳が紹介される。

翻訳というキーワードから展開されたのが、レーモン・クノーの『文体練習』。こちらもまた、以前のTakram Radioでの渡邉さんの一人しゃべりが興味深い。日本語訳自体が、新たなクリエーションとなる事例として挙げられる。

『翻訳、一期一会』や『口訳 古事記』を経由して、「ヤンキーレベルが高いほうが歴史に残るのでは」という思いがけない終着駅。


川上和人『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』

鳥は恐竜の子孫
恐竜は絶滅していない!
フライド・チキンはフライド・ダイナソー。KFD(p.75)
化石からしかわからない
たった200年の歴史
生痕化石
鳥から恐竜を考えられる
仮説はクリエイティブで柔らかいが、指摘は鋭くストリクト
尻尾を引きずる、子供を囲って歩くという想像
図鑑には常にその時点の最新がある
四足歩行から三点歩行を経由し、二足歩行へ
『ドラえもん のび太の恐竜』
フタバスズキリュウは恐竜ではなく、翼竜。
「いいじゃん、竜なんだから(笑)」
ファクトチェックもある。
卵は産まない
タイパ人間ののび太への批判
ギャードルズ『やつらの足音のバラード』 小泉今日子カバー
「ブロントザウルスがほろび イグアノドンがさかえた」
頭と尻尾、個体差、大人と子供で別名がつくケース
後付けの名前はなくなる
サイエンスとエンタメ力

恐竜化石が歴史に現れるのは、1824年のことであり、「恐竜(Dinosaur)」という言葉には、まだ200年の歴史しかない、という指摘がまず驚き。

ドラえもんの話になると、ここぞと食い付く渡邉さんが面白い。
小泉今日子さんが出てくるあたり、嶋さんらしい。

概要欄の以下の記載。今後、披露することはないかもしれないが、思いがけないムダ知識を得る。

劇伴は無名時代の久石譲(藤澤守名義)が担当。劇中に登場する”マンモスの肉”は”マンガ肉”の原点にもなった。

https://www.youtube.com/watch?v=HSJs1MV-g1A


三木成夫『内臓とこころ』

表紙は胎児のイラスト
解剖学者 三木成夫さん
藝大の保健センター長
いのちに関する授業
保育園での保護者向けの語り
内臓は小宇宙
バランスがよい
アインシュタインは数学が苦手。
先に直感で世界が見えていた。
ラマヌジャンの円周率「女神が教えてくれた」
内蔵に心が宿るのでは
腸内フローラで機嫌が変わる
人間は一本の管
アートのインスピレーションをもらう気がする
口と肛門問題
ヘビの尻尾はどこからか問題
結論は、肛門から後ろ
表情筋はエラの名残
表情筋はどこからきたのか問題(!)
『世界は分けてもわからない』
エピローグ。イタリアとアメリカで2つに割かれた絵
還元主義への警鐘

人類の長年の疑問(?)、「ヘビの尻尾はどこからか問題」がついに解決。
そこに乗っかった「表情筋はどこからきたのか問題」に爆笑。

福岡伸一さんに通ずるような、ほどよい硬さと柔らかさのバランス感が指摘される。多少は下(しも)の話に偏る箇所があるが、それすらいい塩梅で軽妙に語られることが印象的。

そして、著者の三木成夫さんは、うどんにゆかりの深い香川県丸亀市出身であることに後から気づく。

北尾トロ・えのきどいちろう『愛と情熱の山田うどん』

武蔵野線と山田うどんが埼玉を横につなぐ
ライターが愛を語る
あえて23区に進出しない
香川の硬いうどんvs.埼玉の柔らかいうどん
国道16号線の戦争。
武蔵野うどんも硬い。
麺をつくりすぎて自分で売る。出店計画は勘。
KFCの回る看板から、かかしを回す着想を得る。2000万円で買う。
柔らかいうどんと頭脳
「いいとこ開いたね」
「山田が心配でならない」とは?
東京に進撃を企てるが、撤退した。
地方豪族チェーンとしての生存戦略
アジャイル的・スクラップアンドビルド的な手腕の柔らかさ

後半に向かうと、うっかり本の紹介は駆け足になる。
山田うどんは、出身地によってはまったく馴染みがない人もいるだろうか。相当な年月を経て、この曲を思い出すが、おそらく誰にも伝わらない弱い文脈。


エツィオ・マンズィーニ『日々の政治』

イノベーションだけでなく、意味形成の力もある
ものごとを捉えるフレームを変えることで豊かさが生まれる
カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル
A対Bではなく、分断を生まずに両者が満足する仕組みづくり
スイスのMIGROS
アルコールを販売しない伝統
健全な議論を促進する、決めつけないデザイン
バウハウス以降は、エキスパートデザイン。
スローフード運動、精神病棟の撤廃
合唱団では歌える
より生きやすい場所を自らつくる。
読みにくさのバランス感覚。読みにくい面白いの極地。
タイトルは硬いが、社会参画を柔らかく訴える

こちらもまた、『日々の政治』の日本語版共訳者である安西洋之さんがゲスト出演した、Takram Radioを思い返す。

そして、安西さんと渡邉さんの交流のきっかけとなったという、ロベルト・ベルガンティ教授の「意味のイノベーション」のTEDトークの日本語訳を記した、渡邉さんのnote記事も読み返す。このプレゼン動画は、たしかに惹きつけられる。


カルロ・ロヴェッリ『すごい物理学講義』

超ひも理論や、『時間は存在しない』に通ずる
読んでみるけどわからない
一文だけわかると、いいこと書いてるっぽく見える
ここ20年の物理本のベスト。
翻訳の美しさ。文学的に時間と概念を解説する。
無限の気持ちを26文字のアルファベットで表せるように、世界も数十の原子からできているはずだ。byデモクリトス
学問体系のスクラップアンドビルド
説明できない事象が出たときに、再構築する。
トーマス・クーン パラダイム論
夏休みの宿題にぜひ
硬いと柔らかいの往復運動
天才は、不安を抱えて死ぬ
ニュートンもなぜ力が伝わるのかを説明できない
ファラデーが力線を見つける
音楽批評家のホセ・ボウウェン。
記憶された革新の記録(The History of Remembered Innovation)
演奏によって歴史が切り替わる。
遠い点が打たれたあと、フォロワーが増えると拡張される。
松田聖子の「Sweet Memories」を山崎まさよし・Char・斉藤和義が歌うとすごい歌になる。
軟派が硬派に生まれ変わる。

個人的には、かつて読んだサイモン・シンの『宇宙創成』を想起。まさに巨人の肩に乗ることを繰り返す科学者の営みの歴史は、たしかに夏休みの読書にピッタリな気もする。

また、記憶の片隅に消えそうになっていた、ホセ・ボウウェンの論文について、自身の備忘のためリンクを記載しておく。覚えておかなくちゃ。

クロージング

次回のテーマは、「速いと遅い」に決定。『ファスト&スロー』に代表されるような、ファストとスローの価値観の対比か、はたまた別の切り口か、引き続き脱線を繰り返す対話が展開されることに、勝手に思いを馳せる。

後書き

イベント終了後の青山ブックセンター店内に流れていたとある曲が、耳と心に刺さり思わず検索した。

Tones And Iの「Dance Monkey」を思わせるイントロから始まるものの、次第に重なる地を這うベースの妖艶さ。うだるような東京の暑さにまとわりつく、どこか哀愁を感じさせるサビのメロディーライン。

歌い手のSofie Royerは、オーストリア人とイラン人の両親を持ち、カリフォルニアで生まれたという。どこの国とも判然としない音の世界観は、彼女の出自によるものかもしれないと解釈。

いざPVを観てみると、歌詞が全く分からない上に、彼女のぎこちないステップと、突如大泣きするシーンに理解が及ばす困惑。ただし、なぜかはまってしまいリピートする。

思いがけない曲との出会いも、今回の読書会の脱線の先にある、一つの収穫だったかもしれない。


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