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詩 #001
さんぽにでた
いえのまんまえのじんじゃの
よこてから
けっこうなながさのりょくどうが
のびているので
まふゆ
サザンカいがいのはなは
ほとんどみることはできない
そのかわり
とても
とても
たくさんの
樹木を
ながめながら
あるくことができる
粗樫 榎 欅 椋木
あるきはじめはさむい
そして
なにもかんがえていない
しばらくすると
ぽつぽつと
散歩をしているひとたちと
いきあうようになる
いろんなひとがいる
しんけんにはしっている
じょうげはいいろの
スウェットすがたのおにいさん
おおきめのいぬをつれて
ゆっくりとあるくおばあさん
たちどまっては
のらねこにかまおうとするおじさん
はやさも
としも
せいべつも
ばらばらだけれど
きょうは独りであるいているひとがおおかった
二キロほど歩いて
ポケットから文庫本をだした
ちょうど落葉にかこまれたベンチがあって
みはらしもいいからだ
本は
にほんじんの女の人がドイツの修道院で
しばらく暮らすというものがたりだ
修道院の石壁から
しみとおるように骨ごと冷やしてくる風……
じっさいのところ
このわたしのこころの冷たさときたら
三〇〇年物の石壁なみなのかもな
立ち上がり
散歩をつづける
あるく、ということは
不安をきれいに浮き彫りにしてくれるものだ
亡くなった人が遺したささやかなものをめぐって
生きている者同士が揉めそうな予感を嫌い
かつて愛した友の
もう会わないと決めた友の
うわさばなしを耳にして
その行く末を勝手に案じて勝手に腹を立てる浅ましい偽善者ぶりよ
黒鉄黐 寒桜 隠蓑 柿木
何年も何年も
見ないように
触れないように
出さないようにしてきた
夢や不満や感情
逃げても逃げても
追いかけてきて
脅迫状をつきつけてくるのだったら
やり返すしかないと腹を括った
否
括ろうとしているのだ
それにしても
真冬に何時間も
目的なくあるくというのは意外と難しい
交互にくりだされる二本の足が
どこかこの先へからだを運んでくれるのに任せながら
自分への説教をつづける
詩人に憧れながら
お金のことや
洗濯のことや
他人の強い言葉について
考えすぎる
とても気に入らない
それがまさにこの二本の足の持ち主である以上
どこまでも
終わりまで
付き合わねばならないのだが……
多羅葉 犬枇杷 棈 山桃
いろは紅葉 黐の木
どうにもふらふらしているわたし
ヤジロベエは
重点と支点とが
離れていればいるほど
安定性を増すというものの……
とにかく歩くことだ
さまざまな痛みをみっともなく引き摺って
亡くなった人や
かつての友や
今のしがらみも
全部引き連れて
歩いてみること
栴檀 臭木 楠 花蘇芳
いつのまにか
とてつもなく大きな工場が見えてきた
あれはカメラのレンズを作る会社だ
ここを越えれば
町を流れる川の西岸に着く
いつもは車で来る珈琲のおいしい店も
歩けば五キロほどだ
今度は小さな財布に
千円札をいちまい
いれて持ってこよう
本音を言えば
目的などなにも持たず
ただただひたすらに歩く
カッコいい人になりたいが
それが出来ないうちは
小さい目的のために歩くことを
許す日もつくろうと、思う
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