FIREすることで幸せになる人とそうでない人の違い-『幸福の資本論』からFIREを考える
『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』などの著者で有名な橘 玲さんの『幸福の資本論』を読んだのですが、とてつもなく面白い本でした。
このnoteではFIREを題材に人生についていろいろ書いていますが、実のところ自分自身は人生なんてアンコントローラブルだから「成るように成れ」という感覚で、今できることをやるだけという意識が強く、幸福になりたいとかはあまり思ったことはありません。
どちらかというと、マネージャーという立場上それなりの人数を見ているので、他人がどうなのかという視点でこういう書籍は興味をもって読んでいます。
人はどうしたら満たされるのかという点でいうと本書を読むまでは「マズローの欲求5段階説」を最有力にしていましたが、本書の「3つの資本」の腹落ち感がすごく、完全にランキングが入れ替わりました。
本書を読みながらも部下の顔を思い浮かべ、A君はこうだから充実しているとか、B君はこうだから何かとネガティブとか、当てはまる内容が多いというのが読みながら感じたことです。
人を幸せにする3つの資本
本書を簡単に要約すると、日本人が人生で得られる可能性のある資本は大きく3つあり、2つ以上持っている人が幸せを感じることができているというような内容です。
その3つとは、
①金融資本(不動産を含む財産)
②人的資本(働いてお金を稼ぐ力)
③社会資本(家族や友人のネットワーク)
です。で、それを表した図がこれ。
一番上が3つを満たし、上から2番目は2つ、3番目は1つ、一番下はゼロな人です。
FIREして幸せになるには
これをFIREする場合にあてはめてみます。
FIREする場合は金融資本がある状態ですので1つは満たされています。
そして、「既婚者である」または「頻繁に連絡をとりあう仲間たちがいる」場合は社会資本も満たされるので、2つ以上になる可能性が高いです。
ちなみに「連絡を取りあう仲間」は40歳過ぎるとそれまでの人間関係は疎遠になるので期待せず、出来るだけ同じステータスの人(FIREした人)のほうがよさそうです。一方で、FIRE後に使えるお金が限られるのと歳をとってアクティブさも減るので新たな関係性構築は、かなりハードルは高そうです。
TwitterなどのSNS上でFIREした人がうろうろしているのは、金融資産だけでは満たされず、社会資本を満たしたいがためだと思ったりもします。
街中に住んでいるのであれば地元の飲み屋で16時くらいから毎日センベロしていれば、そこそこのネットワークはできそうです。
また、引退した人たちの集まる自己啓発セミナーみたいなネットワークに参加するのもよいかもしれません。私の先輩も還暦間際でSNSで突然わけわからんネットワークに入り盛り上がってるのをみていて不思議でしたが、ようやくこういうことかと理解しました。
それでも社会資本の構築が難しいのであればセミリタイアにとどめて、会社に片足残しながら人的資本を保っていたほうがよいかもしれません。既婚者であれば3つを満たせる「超充」になれる可能性も高いです。
仕事をしているだけでも満たされるものはある
何よりも、この3つの中で一番ハードルが低いのが人的資本です。死ぬまで働くことさえできれば、生活するお金に困る可能性は低くなります。
なので働くことにしっかりと向き合ったうえでFIREを目指せば、それなりに幸せになるのかなとも思います。
特に日本の会社は長年働くことを前提にしているため、会社自体が1つのムラ社会になります。金融資本を作ることができなくても、居心地のよい会社で働くことは人的資本を満たすとともに、同僚たちと社会資本も築けるので、それはそれで幸せかと思います。
一方で、定年退職というのはその2つを同時に奪うので、少なくともそのタイミングで金融資本がないとどん底に落ちてしまいます。退職金制度がある程度支えてくれはしますが、限られた金融資本では現役で働いていたころのように好きなことにお金は使えなくなります。早期リタイアではなくてもマネーリテラシーをつけて金融資本を作るか、定年後も職をみつけ働ける状態にしておくことは大事かと思います。
SNS界隈で感じるFIREに対する違和感
以前からSNS界隈でFIREを目指す人に違和感を感じていたのですが、その違和感もこの3つの資本を知ることで頭の中を整理することができました。
若くしてFIREを達成した人たちがSNS上ではポロポロと出てきていますが、彼らは仕事をし続けることを否定し、若いうちに金融資本に振り切ることで、得られる資本を1つに限定してしまっていると感じていたからだと思います。(本書では金融資本と社会資本の両方を満たすのは、よっぽどの金持ちじゃないと難しいといっています。)
お金だけ持っていても幸せになれないというのはこのあたりのことで、人的資本や社会資本による社会との関係性がないと精神的に行き詰まりそうです。
なので、若くして会社に対して絶望感をもっているのであれば、折をみて転職してでも仕事を続け、自分の居場所を見つけたほうが幸せでいられる確率は高まります。
特に、金融資本を満たすために専業トレーダーで実現しようとした場合、それに失敗した時には何もなくなりただの貧困になるので注意が必要です。やり方によりますが、FIREと貧困は紙一重です。
多くの人が投資に回すお金は労働で稼ぐことを薦める理由は確実性もありますが、こういう理由もあるのかと思います。
(お金もなく友達もいない専業トレーダーであれば、その時点で既に貧困層ですが、、)
余談ですが、専業主婦を目指すのも、相手がよっぽどのお金持ちではない限り、資本を1つに絞るので満たされづらいのかなと思ってしまいました。
セミリタイアは幸せ度が高い
こうしてみると、FIREすることやFIREをして自分らしい生活ができたとしても、幸福度が増すかどうかは疑問です。金融資本しか満たしていない人は、先の図では3階層目の「退職者」にあたり、早期リタイアしても老後と同じ状態がただ長くなるだけかもしれません。
それはやってみなければわかりませんし、個人差もあるかと思いますが、FIREして幸せになりたいという人は、結婚して家族を持つか、仕事に片足つっこみつつのセミリタイアを目指して2つの資本を持つのが、本書の定義上ではよいのかと思います。
まったく貯金がなくても定年まで働くことにストレスを感じていない社畜と呼ばれる人たちや、地元の幼馴染たちと歳をとっても仲良く遊び続けている田舎のマイルドヤンキーと比較した場合、FIREできたとしても金融資本しかもっていなければ、幸福感に大差はなさそうです。
金融資本がある人は、お金があるから何とかなるという安心感があるように思えますが、著者がいうように働く力というのが一番の資産です。FIREしてから何をやりたいかによりますが、そこまで多くの時間を使わないものであればセミリタイア程度で人的資本を維持しておいたほうがよいような気がしています。
※幸せなFIREを目指すために、以下の記事でも別の視点で考察しています。