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なぜ定番パターンをマネしても書けなかったのか ~「文章はつかみで9割決まる」おまけ原稿#1~

こんにちは、ライターの杉山直隆です。

先日、『文章はつかみで9割決まる』という本を発刊したのですが、

ページ数の都合上、載せなかった原稿が何本もありました。

一部の人にしか役に立たないような細かい話も多いのですが、誰かの役に立つかも…? ということで、その一部をこちらに掲載します!

1つ目の原稿は「なぜ定番パターンをマネしても書けなかったのか」。駆け出しのときの失敗エピソードで、本でも同じようなことを書いているのですが、別パターンとしてご紹介します。

定番パターンを知っているのに、つかみが思い浮かばない

 読み手の心をひきつけるつかみを書くために、まず私が取り組んだのは、さまざまなメディアの記事から目を引くつかみを見つけて、そのパターンをマネすることでした。
 たとえば、
・「○○○で悩んでいませんか?」と悩みから入る
・「これまでは××が常識だと思っている人は少なくないだろう。それに対し▼▼を始めたのがAさんだ」と常識をくつがえす

 といった定番のパターンです。皆さんもどこかで見たことがあるでしょう。

 このパターンのなかから、いま書いている原稿に合ったものを選べば、読み手の目を引くつかみが書けるのではないか、と考えたわけです。

 ところが、つかみの定番パターンを知っているのに、「これだ!」というつかみが思い浮かびません。
 なぜか? その原因を考えて、当たり前の事実に気づきました。
 それは「『読み手』は誰か」「読み手が何を求めているのか」が分かっていないことです。

「経営者」がわからない

 たとえば、私は、駆け出しの頃から、経営者向けのメディアで仕事をしていました。編集部から「この企業を取材してきて」という指令を受けて、話を聞きに行き、経営者の参考になるような記事に仕上げるのが、私の役割です。
 しかし、この記事を制作するときに、毎回といっていいほど、つかみで悩んでいました。どんなつかみにすれば、経営者に響くのかがまるで分からなかったからです。

 大学を出たばかりで、経営者どころか、社会人としての経験も少なかった私は、経営者が何を考えているのか見当がつかなかったのです。親や親戚に自営業をしている人もいないし、強いて言えば、大学時代にアルバイトをしていたコンビニのオーナーがいたぐらい。
 そもそも「経営者」とは誰なのでしょうか。大企業ではなく中小企業の経営者であることだけは分かっていましたが、編集部の人に確認したこともなく、ぼんやりと「中小企業の経営者」としか思っていませんでした。

 いま考えると、これで良いつかみが書けるはずがありません。

 先述したパターンを使うといっても、「○○で悩んでいませんか」というパターンは、何で悩んでいるのかがつかめていないので使えませんでした。「これまでは××が常識だと思っている人は少なくないだろう」というパターンも、読み手の常識がわかりません。

「ダメなつかみ症候群」を発症

 その結果、「ダメなつかみ症候群」をよく発症していました。
 多かったのは、「読み手が興味のない話を選ぶ」症候群です。
 たとえば、「都内に、短時間だけ昼寝ができるスポットが増えている現象」について取材したことがあったのですが、その記事のつかみは次の通りでした。

寝不足や二日酔いが辛く、少しだけ仮眠をとりたい。かといってサウナに行くほど時間はないし、公園や喫茶店では人目も気になる…。眠気をガマンして仕事をした経験が、あなたも一度や二度はあるだろう。

 ビジネスのヒントを探している経営者を相手にしたつかみとしてはどうでしょうか? 経営者も過去にそういうことがあった人はいるでしょうが、意識が低い人を相手にしたつかみになっていて、適切とはいえません。それに、「冗長なつかみでうんざりさせる」症候群も併発していて、忙しい経営者のためのつかみとはいえません。
 それなら、このつかみの後に続く、

短い時間だけ昼寝をする場所を借りられる『有料昼寝スポット』が、都内に続々登場している。

をつかみにした方が、ストレートにトレンドがわかるので、まだ良いでしょう。
 何を書いていいのか分からないので、「みんな知っているようなことから書き出す」症候群や、「手あかのついたつかみについつい頼っちゃう」症候群にも陥りました。

 また、同じく駆け出しの時に、旅行関係のメディアでも書いていたのですが、こちらも読者対象が「旅慣れたシニア」だったので、やはり読み手の気持ちが分からず、大苦戦していました。
 当時の海外旅行の経験はハワイとタイの2回のみ。どちらも短期間、学生ノリでワイワイ遊んできただけで、旅慣れたシニアの旅とはどのようなものか、どんな情報を提供すればいいのかがいまいち想像できません。

東南アジアの大人気リゾート地、プーケットをご存知ですか?

 というような、旅慣れた人にはまったく刺さらないつかみを平気で書いていました。

 こうした失敗を繰り返すことで、「読み手のことが分かっていなければ、読み手の心をひきつけるつかみが書けるはずがない」という当たり前のことに気づかされたわけです。

<次回に続く>


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