歴史的文化や慣習が息づく”暮らし”を味わえる街 チェンマイへ。在住歴24年、ライター岡本麻里さんにインタビュー
バンコクの北方約720キロに位置するタイ第2の都市チェンマイ。「北方のバラ」とも称される美しい古都です。
多くの日本人にとって聞いたことはあるけれど、タイといえばバンコクやプーケットへ行くことが多く、訪れたことがない人が多いのが実情。
そこで今回は、チェンマイの生活・文化・人をこよなく愛し、深く知り尽くしたチェンマイ在住24年のライター岡本麻里さんにチェンマイの魅力について語ってもらいました。
チェンマイの第一印象は「都会」
―大学生の時に初めてタイを訪れたようですが、きっかけは何だったのでしょうか?
「私が最初にタイを訪れたのは、タイ人の友人がいたからでした。初めてタイに行った時、タイの人々は自分を家族の一員のように受け入れてくれるので、感激してタイが好きになりました。
欧米文化では、多くのことがYESかNOかはっきりさせることが求められる一方で、アジア文化、特にタイ文化ではそういった二元的な見方から離れ、人々が恥ずかしさや遠慮を表現することにも心地よさを感じました。」
―チェンマイとの出会いはいつでしたか?
「その後大学を卒業してアジアを旅しました。その時に、初めてチェンマイを訪れたのですが、当時の印象は正直言ってあまり良くありませんでした。インドネシアの田舎を2か月間回った後だったこともあり、「チェンマイは都会すぎるな」と思い、その時はあまり好きになりませんでした。その後すぐに次の街へ向かいました。」
―その後、日本で働かれた後にタイへ移住されたようでしたが、どうのようにチェンマイにたどり着いたのでしょうか?
「海外に住んでみようと思い立ち、タイと台湾のどちらで生活を始めるかで迷ったんです。せっかく海外で暮らすなら言語を学びたいと思い、中国語とタイ語どちらを学ぶか迷ったのですが、タイ語が音楽のように耳に心地良く、好きな響きだったのでタイ語を学べるタイにしました。
次に「タイのどこで学ぶか」ということを考えたのですが、バンコクは都会すぎると感じたので嫌でした。そこで次に考えたのがイサーンとチェンマイで、イサーンではタイ語の語学学校を見つけられなかったことから、結局チェンマイを選びました。当時の選択は消去法でした(笑)」
文化や慣習が暮らしに残る街、チェンマイ
―消去法で選ばれたチェンマイでしたが、なぜ20年以上もチェンマイに住むようになったのでしょうか?まりさんを惹きつけたチェンマイの魅力は何でしょうか?
「アパートの管理人さんと仲良くなり、チェンマイの暮らしを体感することができたからですね。そして、チェンマイの一番の魅力は、古くからの文化や慣習、言い伝えが生活に残っていることだと思います。
管理人のウォンは私と同い年で、アパートの管理以外に屋台や洗濯屋さんもやっていました。私は屋台のお手伝いをしていて、一緒に市場へ行って買い出しをしたり、ウォンの家族の村に連れて行ってもらったりして、ウォンと同じ生活を味わっていました。
そんなウォンとの面白い話が2つあるんです。
1つ目は、ナマズの幽霊の話。ある時、釣りに行ったんですよ。私自身は何も釣れなかったけれど、隣で釣りをしていたおじさんが、ナマズを7匹ほどくれたんです。そのナマズたちは長さが中には70から80cmもあるような大きなものもいました。
そのナマズを友達の家に持ち帰って、お母さんが小さなものを2匹料理してくれて、美味しく食べました。そして、残ったナマズはたらいに入れて保管したんですよね。ナマズが飛び出さないように、板を上に置き、さらにその上に椅子を乗せて、絶対に出られないようにして、それをアパートの部屋の前に置いたんです。
でもね、次の日に目を覚ましたら、なんと一番大きなナマズが消えていました。板や椅子は全てそのままだったんですけど、大きいナマズだけがいなくなっていました。
お母さんはそれを「ナマズの幽霊だよ」と言ったんです。お母さんは、「ナマズは年を取ると特別な力を持つようになって、消えることができるようになる。間違ってそのナマズを食べると体調を崩す、あるいは病気になる」と言っていました。
私は、誰かが盗んだと思いました。バンコクの友達に話したら、「そんなことあるわけないよ」と笑い飛ばしていましたけど、私はお母さんが昔からの言い伝えを大事にするところがすごい良いなと思いました。
2つ目に、魂を魚の網で拾いに行った話。ウォンのお父さんが交通事故に遭って入院したんだけど、そのお父さんのお姉さんに「まり、これから魂拾いに行くよ!」といきなり言われて、魚の網をもって、その現場に一緒に行きました。
バナナの葉で入れ物を作って、交通事故の現場に行って呪文を唱えながら、お父さんが事故で落とした魂を拾って、病院に持って行ってお父さんに渡しました。
都会に住んでいたら、簡単に笑い飛ばしてしまうような話も、文化や慣習として残っているのがとても良いなと思うんです。
その他にも、チェンマイでは一人一人が自分の民族衣装を持っていて、それを特別な日だけでなく、日常でも着たりしていたりするのを見ると素敵だなと思います。
また、チェンマイだけでなく、タイの魅力になるんですが、それは何と言っても「人々の温かさ」だと思うんです。
何をしても許容してくれる雰囲気は絶対に日本になくて、居心地が本当によい。チェンマイにずっといると、日本社会に復帰することはできなくなってしまう(笑)
ただし、タイのライフスタイルは時間を厳密に守らないなど、細部にこだわる人にとってはストレスを感じるかも(笑)。タイでは計画が上手く行かないことが多いです。問題は起きるけれど、最終的にはなんとかなるんです。柔軟性もまた、タイの魅力の一つだと思います。」
コンパクトに何でもそろう街 チェンマイ
ー他にもチェンマイの魅力はありますか?
「チェンマイの2つ目の良さとして、「コンパクトに全てが揃って、様々な選択ができる」ことがあります。というのも、チェンマイでは中心地から車を10-20分走らせると、自分の求めるものに何でもたどり着けます。
例えば買い物にしても、現地の人が集まるローカルな市場がある一方で、世界各国の輸入食材が揃ったきれいなスーパーマーケットもあります。飲食の面においても、タイ料理レストランはもちろんですが、世界各国の料理が楽しめるお店もたくさんあります。文化的にも、チェンマイには海外から移住してくる方が多いため、タイ文化に加えて、他の国の文化も体験し、学べるのが良いです。
住居もタイの伝統的な高床式住居から、都会的なコンドミニアムまで、自分の好みに合わせて選ぶことができます。
チェンマイは古都で自然がある。だけど都会的な暮らしもできるように、自分の好きなものを自分に合せて選べるところが魅力ですね。また、バンコクと比べて、物価も安いですし。」
チェンマイの今と昔 日常の簡素化
ーチェンマイに20年以上住んでいらっしゃいますが、時の変化を感じられることはありますか?
「20年前と比べて、生活の1つ1つが簡易化されてきたと感じています。例えば、ソンクラーン(タイ正月、別名水かけ祭り)のお供え物で、1から自分で作る人が少なくなり、出来合いのものを買ってきた方が早いと考える人が増えてきました。
また、食事を包むときも、昔はバナナの皮や竹紐などを使っていましたが、現在ではビニール袋やホッチキスを使うことが増えたり。特に若い世代では、伝統的な方法を使う人が少なくなっているように感じています。
私が取材などで昔ながらの方法を続けている人を探しても、「そんな人はもういないよ」という回答が増えてきたように感じています。」
タイの良さをもっと広く知ってもらいたい
ーまりさんは執筆活動をされていますが、タイの文化を守るという点も意識されているのでしょうか?また、今後はどのような活動を考えられていますか?
「文化を残したいという気持ちはもちろんあるのですが、根底には「タイの良さをもっと多くの人々に知ってもらいたい」という気持ちがあります。
今はチェンマイだけでなく、タイ全国の様々な都市に足を運んで、現地の生活や文化について取材をしています。最終的には本にまとめる予定です。
本を通じて、皆さんにタイという国はバンコク、プーケット、チェンマイだけでないこと、タイ料理がパッタイやガパオだけでないことを知ってほしいと思っています。
タイには本当に良いものがたくさん残っているんですよ。たとえば、日本では職人芸のような、竹を割って編むといった技術もタイ人にとっては当たり前のようにある。
現在本は日本語で書いていますが、実は私、タイの魅力をタイ人に伝える本を書きたいと思っているんです。「自分たちの国には、こんなにも良いものがあるんですよ」って。
タイ人はあまり本を読まない(笑)のでまずは日本語で執筆して、日本人にしっかり魅力を伝えたい。最終的にはタイ人・全世界の方にタイの魅力・良さを知ってもらいたいと思います。」
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私がチェンマイへ行くたびに、少数民族の村を訪問したり、果物農家さんを訪問したりとチェンマイの魅力を現場で教えてくださるまりさん。普段の会話では聞くことのできない、チェンマイの魅力を改めてお伺いでき、とても貴重な機会になりました!
今後もタイ・チェンマイの師匠としてよろしくお願いいたします。
岡本麻里さん ブログ&SNS
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