マイケル・マン最新作『フェラーリ』の感想
ストーリー
1957年。エンツォ・フェラーリは難病を抱えた息子ディーノを前年に亡くし、会社の共同経営社でもある妻ラウラとの関係は冷え切っていた。そんな中、エンツォは愛人リナとその息子ピエロとの二重生活を妻に知られてしまう。さらに会社は業績不振によって破産寸前に陥り、競合他社からの買収の危機に瀕していた。再起を誓ったエンツォは、イタリア全土1000マイルを縦断する過酷なロードレース"ミッレミリア"に挑む。
監督 : マイケル・マン
出演 : アダム・ドライバー、ペネロペ・クルス、シャイリーン・ウッドリー、パトリック・デンプシー
感想
マイケル・マン監督
個人的には『ヒート』や『コラテラル』などマン監督の作品は大好きなものばかり。昔の作品ならジェームズ・カーン主演の『ザ・クラッカー 真夜中のアウトロー』や『羊たちの沈黙』よりも先に作られた『刑事グラハム 凍りついた欲望』も印象的。
しかしながら2015年公開『ブラックハット』の批評的&興行的な失敗が原因なのか、以降は新作を発表せず、約8年…
遂にマイケル・マン師 (アフター6ジャンクションの宇多丸さん の呼び方)の新作が公開!!
本作『フェラーリ』の製作自体は1990年代頃から存在し、当初の監督は『ザ・ヤクザ』や『コンドル』などのシドニー・ポラック、マイケル・マンは製作という形で映画化が進んでいたそうです。90年代ということでエンツォ・フェラーリ役はもちろんロバート・デ・ニーロが考えられていたとか。
しかし2008年にシドニー・ポラック監督、2009年に脚本家トロイ・ケネディ・マーティンが死去したことで製作は何度も中止に。
その間にエンツォ役として考えられていた俳優はクリスチャン・ベールとヒュー・ジャックマン、妻ラウラ役にはノオミ・ラパスなどが候補に上がっていたそうです。
つまり本作はマイケル・マン監督にとって30年以上温めてきた念願の企画であり、『ブラックハット』の失敗を考えると起死回生の一本だと思われます。
ということで実に8年ぶりの監督最新作『フェラーリ』の感想を書いていこうと思います〜
結論を先に言っちゃうと、
僕はめちゃくちゃ面白かったです!
ただ万人向けする映画か と聞かれると……
正直に言うと間違いなく人を選ぶ映画…
マイケル・マンが製作総指揮を務めていた『フォードvsフェラーリ』のような大人のエンタメ映画、熱いレース映画 みたいなものを期待して観ると、間違いなく肩透かしを食らうと思います。というか観ていて楽しい映画ではないです。
では なぜ 面白いのか というと
マイケル・マン監督の映画
マイケル・マン監督はどんな映画を作ってきたのか を語らないといけません…
『ザ・クラッカー 真夜中のアウトロー』、
『ヒート』、『マイアミ・バイス』など、
これまでに何度も"カッコいい男"たちを描いてきたマイケル・マン監督。マイケル・マン映画の男たちは自分の仕事へのこだわりや美学が非常に強く、周りの人たちに理解されなくても自分が信じるヴィジョンに向けて突き進む という男たちが多い。
一方で女性はそんな男性を辛抱強く見守る という役回りが多い。
こう書くと、今の時代からすれば古臭い映画と思われそうですが、マイケル・マン映画の場合はかなり突き放したクールな作風で描かれることが多く、こういう男性たちをカッコよく=ハードボイルドを描いてはいるけど、決してハッピーエンドとは限らない。この描き方こそマイケル・マンならでは だと思っています。
本作『フェラーリ』も構図としてはこれまでに何度もマイケル・マンが描いてきたストーリーと同じ。しかし本作は妻ラウラや愛人リナなど女性側の視点も多く、アダム・ドライバー演じるエンツォが観客の同情を誘うような魅力的な人物としては描かれておらず、むしろ先ほどの"自分が信じるヴィジョンに向けて突き進む男"というものをマイケル・マンは批判的に描いており、これまでのマイケル・マン映画とは一味違う作品になっていたと思います。
ただ本作のエンツォ、もし本作の監督が『最後の決闘裁判』などのリドリー・スコットならもっとどうしようもない最低男として描かれていたと思いますが、本作では確かにどうしようもない最低男ですが、そのマシンのような冷たさの中に隠された温かさや優しさがある人間として描かれているもの特徴的で、ある意味、マイケル・マンの集大成だと思いました。
これまでのマイケル・マン映画とは全く違う良さ…
世間的には賛否両論ですが、これまでとは全く違う面を観られたので僕はとても満足です。
また決してこの映画のメインではないけど、レースシーンも凄すぎる…
『フォードvsフェラーリ』のル・マンレースとは違い、整備の進んでいない一般公道でレースを行う今回のミッレミリアのレース。ほんの小さなミスが命取り、ちょっとした事故=死という、『フォードvsフェラーリ』とは違うスリルと迫力。
物凄い迫力に圧倒されている中、思わず、
あ… と声が出てしまったあの場面…
レースを楽しんでる劇中の観客、ましてやこの映画のレースシーンを観て興奮している僕たち観客に対して冷や水をぶっかけるかのような、あの恐ろしい場面。アメリカ国内では"残酷で悪趣味"と批判の声もあったそうですが、
(そういう批判対してアダム・ドライバーは「fuck you. I dont know」って一蹴したそうです)
あの場面があるからこそ、当時のレースがどんなに危険だったのかが今の世代の人たちにも伝わる。実際に劇中では無事に完走したジャック・オコンネル演じるレースドライバーのピーター・コリンズは翌年1958年のドイツで行われたF1レース中の事故で26歳で亡くなっています…
レースシーン以外は基本的に地味な場面が多いですが、フィンチャー組の撮影監督エリック・メッサーシュミットの見事な撮影に惚れ惚れするような画の連続。このバッキバキの極まった画が際立つであろうドルビーシネマとかで観たかったです。
ということでマイケル・マン監督最新作
『フェラーリ』、最高でした!!
次回作は『ヒート2』との噂…
ほぼ確実っぽいので楽しみ〜!!!
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