辻仁成が、私の全てだった頃。
那珂です。
色々最近は考えすぎて、文章を書くのも、窮屈な感じ。
卒業式も終わり、今はちょうど宙ぶらりんな気分でもあります。
高校を卒業した時の、あの宙ぶらりんな時間。
どこにも属さない、何者でもない、未来が見えるわけでもない。
春の埃っぽさと、生暖かい空気と、何とも言えない不安。
「あの気分」の再来です。
皆さんは、大学進学や就職で故郷を離れましたか?
北海道は田舎なので、ちょっと勉強しようと思えば、札幌や東京に出なければならない環境でもあります。
私の同級生たちも、
「何としても東京に行きたい」「何としても都会に出たい」という一心で受験勉強をし、晴れて都会人になっていく人がたくさんいました。
私自身も、東京の私大を受験したのですが、敢えなく撃沈。
地元と東北の国立大学を受験し、そのまま地元の大学に進学することになりました。
高校生くらいの頃から、私は自分の故郷が好きではありませんでした。
有名な観光地であっても、有名人の出身地であっても、どうしても郷土愛が持てないまま成長してしまったのです。
だからと言って、そこから離れることもできず、みんなが都会へ引っ越していくこの時期に、大学入学までの何もない時間がとても苦痛だったことを覚えています。
でも、唯一、この街に住んでいて、良かったと思えることがありました。
辻仁成が、函館で高校時代を過ごし、その後もこの地を描き続けてくれたこと。
私の青春は、この人の創作活動に捧げられていたと言っても過言ではありませんでした。
まずは、バンドのエコーズでボーカルをしていたところから私の推し活が始まっていきました。
独特の掠れた声と、リリック。
ヒリヒリするような言葉の使い方が他のミュージシャンにはない魅力でした。
1992年、最初の小説が第13回すばる文学賞を受賞。
この辺りから、小説やエッセイなど、著作本を買い漁るようになっていきました。
最初の作品が、こちら。
文庫版は、日本語と英語版の両方を持っていて、ボロボロになるまで読んでいたなあ。
高校の英語の授業で、好きな英文を朗読してテープに吹き込むという課題が出たのですが(?)その題材にしていたくらい、好きな作品でした。
「クラウディ」は、函館空港にミグ25が緊急着陸し、パイロットが亡命するという事件を冒頭に描いていることでも有名になりました。
この頃の辻作品は、今のヤングアダルト世代にもぜひ読んでほしい!
少年時代からのエッセイです。この本もよく読みました。
辻仁成氏は、函館の生まれではありませんが、父親の仕事の都合で引っ越しを繰り返していたそうです。
高校生になり、函館西高校へ進学した彼は、函館の宝来町にある一軒家で一人暮らしをしながら高校へ通っていました。
(その建物が、昔のジョリジェリフィッシュという飲食店でした。今は、空き家になっており、特徴的だったピンクの塗装も見えなくなってしまっています。残念・・・)
ミュージシャン、小説家、映画監督と、その当時からマルチぶりを発揮していた辻仁成に10代の私は心酔しておりました。
そして、『海峡の光』が、芥川賞を受賞した時、
今は閉店してしまった「棒二森屋」の書店で開かれた辻仁成氏のサイン会があることを知り、本を買い、並んだことを覚えています。
今でもその時の本を大切に持っていますが、サインを毛筆で丁寧に書かれていたことや、受賞記念の講演会に行ったこと、その当時の奥様であった南果歩さんとお子さんとのエピソードなんかを
話してくれたっけ。思い出しましたわ。
そう言えば、私が学生時代、とある学校でお世話になっていた知り合いの方が、主人公の刑務官のモデルだっということは後で知りました。同級生だったそうで・・・びっくり。
函館を題材にしたエッセイも書かれていますので、こちらも函館観光に来られる前にぜひ。
その当時、始まったばかりの「イルミナシオン映画祭」にも「千年旅人」という作品を出品されていて、観に行った記憶があります。
その後しばらくは、すべての小説やエッセイなど買い漁り、揃えていたのですが、
南さんと離婚され、あの女優さんと再婚されてパリに渡ったあたりから、ちょっと
気持ちが離れてしまったのは事実です。
小説としても、「冷静と情熱のあいだ」あたりがピークだったように思えるのですが、どうでしょうか。
江國香織さんとの2冊同時出版というのも、当時はとても話題になりました。
せっかくなら、両方読んでみて欲しいです。
映画も9本ほど撮っているのですが、アントニオ猪木さんが主演で、函館ロケの映画はこちら。
もう、ロケ地の団地は取り壊されてしまい、皮肉にも、老人福祉施設が立ち並んでいます。
今、この記事を書きながら、思ったこと。
「あー、あの本 売らなきゃ良かったかな・・・」
最近、バラエティー番組などでパリでのシングルファーザー生活を発信されているのをみて、これまでとは違った一面が見えて、やっぱり面白い人だなと、一周回って興味津々。
文章・エッセイ教室をリモートでされていたり、色々ととんがった活動をされているようでまた辻さんの文章を読んでみたいなと思ったりしています。
久しぶりに、函館に帰ってきて、また何か書いてもらいたいなあ。
GRAYでもなく、ジュディ&マリーでもなく、北島三郎でもなく、
私の「函館」を肯定してくれたのは 辻仁成の音楽と文学でした。
辻仁成氏が、函館に住んだのは、高校時代の数年間だけでしたが、
その作品の中には、確かに函館の空気が感じられるものが多い気がします。
同じ街に住み、同じ景色を見て、同じ道を歩く。
そのことが、とても貴重で嬉しく思えた10代の私。
春の宙ぶらりんな気分のままで、
エッセイを手に、
辻氏が青春を過ごした懐かしい街並みを
30年ぶりにぶらぶらしてみたい、と
五十路女は思うのです。
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