見上げる秋
少しあせたカラー写真が
机の上にのっている。
もう、随分むかし、
北の故郷で撮った、
あの人の写真だ。
休みはいつも
山や平原を車で走り、
気の向くまま降りた草原で、
でっかなラジカセを
大音響で流しても
文句も言われない。
熊よけになると言って
笑ったほどだ。
あの人は、
写真を撮られるのが嫌いなくせに、
私のへんなところばっかり、
ふいをついてカメラを向ける。
だから、
あの頃の私の奇妙な断片は、
驚くほど写真に残っていた。
ある時、
上の方を撮ってくる、と、
私はカメラを持って
小さな丘を登った。
見渡すと、
土色と黄金色の畑、
深緑の針葉樹の山に
周りを覆われていて
人間は私と、
見下ろした遠くにいる
あの人だけだ。
彼が立つ地面が
秋の日差しに照らされている。
彼は首をうんと反らせて、
ポケットに手を入れて
上を見ている。
その視線の先にある空の青を
雲の白がところどころ、さえぎって、
北国の秋らしい。
私はその全部に
カメラを向けて
シャッターを押した。
そして、
厚い台紙のアルバムに、
見上げる秋、と
タイトルをつけて貼っておいた。
心に引っかかるものなんか
なにもないまま暮らした頃が
二人にもあった証。
季節の変わりめを感じさせない
美しい風景。
あそこを出るとき、
どうやら、
この写真は持ってきたようだ。
何かを手放さないで、
次の価値あるものを目指すのは
ズルいと思っていた若い頃。
何を言ってるんだか。
ほんと。
にやけてしまう。
もうすぐ、今年の秋も終わる。
今日は暖かい。
北国に、こんな秋の日は
ないですよ。
あの頃、
心が空に登っていく気がした曲でも聞こうか。
タイトル写真はみんなのフォトギャラリーから
おかりしました。
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