【紀行】【イベント】「森の芸術祭岡山」
芸術祭の逡巡
今年の夏は散々だった。めっちゃ暑いし、7月前半からひいた風邪が2ヶ月ぐらい燻った。熱はないが、咳が出るのとノドの痛みと声がかすれる。体力は落ちるし、最低限以外の人混みを避けた。
それなのに、今年は(も?)芸術祭がいっぱいある。
「越後妻有 大地の芸術祭」(トリエンナーレ)7月13日から11月10日
「神戸六甲ミーツ・アート2024beyond」(毎年)8月24日から11月24日
「森の芸術祭岡山」(今年から)9月28日から11月24日
最近地方町おこしのような芸術イベントがあちこちで発生しているので、他にもあるかもしれないがとりあえずこの3つ。
そのうち老舗の「大地の芸術祭」は過去3回行ったが、そのうち2回は東京のイベントのあとでおまけとして行った。前回は、関西から北陸回りの鉄道で行ったが、関西からはけっこう時間がかかることがわかった。だが、今回芸術祭自体が火・水曜がお休みなので、東京の日曜のイベントの帰りに行っても月曜しかまわれない。イベント前はけっこう雑用があるし、前倒しで金・土曜日に行くのはしんどいかな〜とやめた。
「神戸六甲ミーツ・アート」は実は昨年、前売券を買って、それを忘れてスマホの機種更新をしてしまったので、買ったチケットが消滅してしまった苦い想い出がある。(救済措置はない)リベンジしたいとは想っていたが、毎年開催されるので、条件の悪い今年でなくてもといいかという気になった。
そして残った「森の芸術祭岡山」! JR西日本がガンガン宣伝している。タブロイドサイズの情報誌「西Navi」の中にも記事があるし、わざわざそれを抜き刷りにしてリーフレットを創っている熱の入れようだ。その中で、「あ、井倉洞と満奇洞が会場になっている!」……これだけで決まりだ。穴好きの私として、以前から行きたかったけど行けていなかったところだ。
岡山は、新幹線沿線の南部は比較的関西からは行きやすいけど、北部の山の中は車がないとなかなか動きづらい。そして、こういう芸術祭があると、公共交通機関が少し便利になるし、公式のバスツアーもある。バスツアーは岡山と津山から出ているが、運行が土日で、決断するのが遅かったため津山駅近くの宿がまったく取れなかった。岡山駅近くの宿を2泊確保して、10月13日(土)〜15日(火)で行ってきた。
1日目 オフィシャルバスツアー「ネイチャーコース」
オフィシャルバスツアーは2コースに分かれていて、1日目は「ネイチャーコース」と称して、会場エリアの西半分にあたる新見市・真庭市・鏡野町を巡った。岡山駅9時出発、18時30分帰着予定で、けっこうスケジュールがキツキツらしく、何度も「時間厳守をお願いします」というアナウンスがあった。
バスはほぼ満席で、以前「大地の芸術祭」で「はじめの頃は空気を運んでいた」と言っていたことを考えると、いろいろ芸術祭の経験値は上がっている気がする。
コースは、満奇洞 ⇒ 新庄宿(昼食)⇒ GREENable HIRUZEN ⇒ 奥津振興センター ⇒ 奥津渓。
満奇洞と井倉洞は月替わりになるらしく、バスツアーでは一度に行けない。そこで、井倉洞は最寄り駅から歩いて行けるようなので、最終日に単独で行くことにした。
満奇洞は、洞内は比較的平坦だが、入口が坂の上にある。小型の車は近くの駐車場まで上れるけど、観光バスはいちばん下の駐車場になるので、坂道がなかなかしんどい。行った日は、後で聞くと会期いちばんの人出だったらしく、洞内は大賑わいだった。赤と青の照明のなか、蜷川実花の彼岸花が幻想的に浮かんでいた。
そして、往復が同じ通路だったので、ときどき渋滞が発生した。「「ふれあいセンター満奇」にも作品があります。帰り道に観てください」と言われていたが、立ち寄るヒマがなかった。
そのあと、新庄宿の古式ゆかしき脇本陣の建物で、いなか弁当をいただいた。
昼食後に真庭市のGREENable HIRUZENへ行く。建物は、隈研吾設計で、中に写真や絵画の作品が展示されている。道の向かいにはヒルゼン高原センターがあり、ソフトクリームをいただいた。
その後、鏡野町の奥津振興センターにあるジェンチョン・リョウのヤマセミを観て、奥津渓の立石従寛の作品を観る。
けっこう移動距離があった。
2日目 オフィシャルバスツアー「ヒストリーコース」
2日目は、津山市と奈義町を巡る「ヒストリーコース」に参加した。今回もほぼ満席。
コースは、津山市城西浪漫館・作州民芸館⇒グリーンヒルズ津山⇒衆楽園(昼食)⇒津山城・鶴山公園周辺⇒すぱーく奈義⇒奈義町現代美術館。
津山市はこの芸術祭の中心地のようで、市内の何カ所かに作品が集まっている。昨日に比べたら、市内各ポイントの移動距離は短い。
もと病院の城西浪漫館ももと銀行の作州民芸館も建物自体がすてきな古い洋館、狭いのでバスツアーのメンバーは二手にわかれて見学した。中に様々な作品が展示されている。ビアンカ・ボンディの部屋の中の森や、ムハンナド・ショノの自動で砂絵を描き続ける作品が印象的だった。
その後のグリーンヒルズ津山は、エルネスト・ネトの野外作品が1点。靴を脱いで作品の中に入らせてもらった。晴れの日でよかった。
旧津山藩別邸庭園の衆楽園ではお庭を見渡せる場所で、これも作品という「ハレノクニ弁当」をいただいて、そのあとお庭を散策。庭の東屋にも作品があった。
その後に津山城で、がんばって石段を登ってアシム・ワキフの大きな竹の作品を鑑賞。城の麓には古式然としてちょっと懐かしい「つやま自然のふしぎ館」があった。
その後、奈義町に向かう。もと屋内ゲートボール場の「スパーク奈義」に展開するレアンドロ・エルリッヒの逆さまの森はなかなかすごい。
道向かいには磯崎新設計の「奈義町現代美術館」があり、中の作品もある。芸術祭の作品ではないが、養老天命反転地の荒川修作とマドリン・ギンズの作品があったのは嬉しかった。ここには奈義町立図書館が併設されていて、行事用小部屋にも作品があったが、私は天窓や窓だらけの閲覧室で「本が日に焼ける〜」とあらぬ心配をしてしまった。
この日も暗くなって19時前に岡山駅帰着。
3日目 井倉洞
岡山での最終日は、朝にちょっとゆっくりして、井倉洞に行って帰ることにした。井倉洞に行くのは、JR伯備線で1時間20分ほどの井倉駅で降りて、歩いて15分ほどだ。全く観光地化されていないフツーの道なので、スマホの地図を見ながら、歩いて行くと「井倉洞」という看板があった。
受付があり、ふだんは洞の中は照明がついているらしいが、芸術祭会期中は照明を消して、ヘルメットとライトの貸与がり、2人以上で入場しなければならないという。えぇ! そうなの? そこで、たまたま前で受付をしていた女性2人組に混ぜてもらった。
井倉洞は、満奇洞と反対で、入るまでは平坦だけど、中はけっこう高低がある。天井が低かったり、岩がとびでているところもあるので、ヘルメットがないと頭をぶつけてしまいそう。中にはサウンドとライトの作品があったのだが、そこに至るまでの洞窟探検の方が楽しかった。今度は通常の状態の井倉洞に行ってみたい。(通常は1人でも入れるらしい)
全体の感想
初めての「森の芸術祭岡山」だが、総じて「こんな機会がなければ行かない(行けない)」ので楽しかった。念願の井倉洞と満奇洞も行けた。こういう地域の芸術祭は、作品を観るという要素もあるけれど、その土地のいろいろを訪れることも楽しい。食べ物も美味しい。
ただ、こっちの準備不足もあるけれど、全体に事前情報が乏しかった。公式ガイドブックは、もしかしたら関西の大型書店にはあったかもしれないけど、現地にいかないと見つからなかった。(私はGREENable HIRUZENで買った)しかも発行が、9月24日。(会期は9月28日から)この時点で宿泊情報とか記載があってもなぁ。
さらに、公式ガイドブックもJR西日本の「西Navi」のパンフもそのアーティストの過去の作品の写真が載っているのも多い。草案のラフが載っているのはまだいい。ホンモノの出来上がり写真は少ない。これは他の芸術祭でもあることだけど、ちょっと目立った。
そして、オフィシャルツアーのボランティアガイドさんも地元の人ががんばっているのはわかるけど、「現代アート?」「よくわからんね」とかは言っちゃいけないと思うんだよ。
今後継続するのか、その場合どの頻度になるのかまだわからないけど、今度は芸術列車やArt周遊バス、シャトルバス、循環バスとか乗ってみたい。今回は土日祝のみという運行も多かったが、これだけ土日に人が集中すると、ちょっと考えてしまう。収支がどんな感じだったのかわからないけど、平日運用も考えてくれたら嬉しい。