コロナ禍のバカンス、マヨルカ島で何もしない「ニクセン」を実践!
2021年夏――コロナはまだ収束したわけではないけれど、ワクチンの普及で重症化する人が減り、政府の規制も緩まり、ヨーロッパではバカンスが戻ってきた。
私たち親子は、はじめのうち様子見といった感じで、6週間の夏休みをオランダ国内、しかもほとんどを自宅で過ごすつもりでいたのだが、どんよりしたオランダの空の下、ネットでいろいろ見ているうちにふと素晴らしくきれいな海を見に行きたくなり、半ば衝動的にマヨルカ島のバカンスをブッキングしてしまった。
準備周到、空港はザル状態
マヨルカ島は地中海に浮かぶスペインの島なので、コロナに関してはスペイン政府による規制に準ずる。私はワクチン接種を終えて2週間が経過していたので、「ワクチン証明」のQRコード、ワクチンを打っていない14歳の長男は「コロナ簡易テストのネガティブ証明」(48時間有効)、12歳以下の次男はワクチン証明もコロナテストも必要なし、という条件であった(8月下旬時点)。ほかに、スペインの保険機関が管理するアプリにいろいろな情報を書き込み、そこでもQRコードを取得。一連の準備はすごく面倒だし、神経も使った。
空港ではコロナチェックのために長蛇の列ができているんだろうな……などと想像しながら、早めに空港へ。しかし、オランダのアイントホーフェン空港でもマヨルカ空港でも、周到に用意したいろんな書類やQRコードがチェックされることはなかった。マヨルカの空港では一応、「スペイン政府指定ののQRコードを見せてください」と言われてコードを見せる場面はあったのだが、スキャナーでピッとやることはなし。これでは、スーパーマーケットの割引クーポンなどの適当なQRコードをスマホの画面に出して、「これです」と言っても通りそうな感じだった。もうマヨルカ島もコロナ感染者数がかなり落ち着いてきているので、チェックが甘くなっているのかもしれない。完全にザル状態。こんなに緩くてインカ帝国!
エメラルドグリーンの海、女人の島、アラバマの冬
マヨルカ島は海あり山ありの美しい島だ。オランダでは「若者がビーチでパーティするチャラい島」のイメージが強いのだが、私たちが滞在した北東部の「cala sant vicenç」は、岩山に囲まれた湾が連なるところで、小さなビーチが点在している静かなところだった。
海は青く透き通っていて、それが浜に近づくにつれて青緑からうすいエメラルドグリーンへとグラデーションになって静かに波打つ光景は、浮世離れした美しさ。砂浜のビーチは観光客でにぎわっていて、カヤックのレンタル屋や果物売りのおじさんが声を上げている。
砂場が少なく、岩でゴロゴロしたビーチにも足を運んでみたら、そこは地元の若者がトップレスでたむろしていて、岩に座ってタバコを吸ったり、日光浴しながら友達同士おしゃべりにふけったりしていた。エメラルドグリーンの水と、オレンジの岩と、浅黒いトップレス集団。まるで「007」に出てくる「女人の島」に来てしまったような気がした。
私たちが泊まったホテル「Grupotel Molins」にはイギリス人とドイツ人が多くて、ほとんど1日中をホテルのプールサイドで海を眺めたり、本を読んり、肌を焼いたり、ときどきプールや海にドボンと飛び込んだりして過ごしていた。私も時々子供たちと海やプールに入ったり、近所の山をハイキングしたりした以外、ほとんどの時間をプールサイドで過ごした。海風に当たりながら、大好きなカポーティの小説に浸る……至福の時間!ただ、せっかく素晴らしい夏の海を前にしているのに、頭の中ではアラバマの粗野な冬の光景が広がっていた。海辺で読む小説としては選択を誤ったかもしれない。
ホテルには「レクリエーション係」みたいなジョルノという男がいて、彼が主催するアクアビクスやスペイン語レッスンや、ダーツなどのゲームに参加する人もちらほら。ジョルノは驚くべきプロフェッショナリズムを発揮して、宿泊客の名前を全部覚えているみたいだったが、私の名前はなかなか覚えられず、最後まで私のことを「ナカオ」と呼んでいた。そんなフレンドリーなサービスも受けているのか、ここで知り合ったイギリス人の3世代家族は、すでに6回もそのホテルに泊まっているとのことだった。カプチーノはとびきり美味しいし、部屋も清潔で居心地がいいし、朝食ビュッフェも豪華だし、部屋からの海の眺めも最高。私もまた同じ場所に行くなら、あのホテルに泊まりたいと思う。
さらばニクセン
帰りはまた長男のコロナテストが必要だったため、早めに空港へ(コロナテストは事前にネット予約)。検査場は空港の端っこの方に設置されており、白衣の検査員が手慣れた調子でサクサクと働いていた。結果が出るまではやっぱりちょっとドキドキする。ここで「陽性」となった場合も想定し、「保険会社にまずは電話して……」などと頭でシミュレーションした。
テストしてから10分ほどでアプリに「陰性(Negative)」の結果が送られてきた。ひとまずホッ。これが済んではじめて飛行機にもチェックインできる。しかし、ここもまたザル状態で、QRコードは見せるだけで「ピッ」というプロセスはなかった。
飛行機は1時間半ぐらい遅れたが、なんとか無事にオランダの自宅に着いた。子供たちはまた自分の部屋に入り、大喜びでゲームをしたり、友達とメッセージしたり。みんな自宅も好きなんだ。カーテンを開けてバルコニーに出たら、シャクナゲの黄色くなった葉が落ちて、カサカサと風に舞っていた。私たちは3人で、夕食に納豆ごはんを食べた。
何もしない1週間の休暇。「Niksen=ニクセン」(オランダ語で「何もしない」ということ)にすっかり慣れてしまい、もう夕食の皿洗いをするのも面倒くさい。オランダ人の友人は、「マヨルカ島に行くのに1週間しか行かないの!」とびっくりしていた(その友人は南仏に2週間出かけた)。確かに、あと1週間マヨルカ島でニクセンするべきだったかもしれない。そうすれば、もうニクセンにうんざりして「仕事がしたい!家事がしたい!」と思うのかもしれない。その心境に達せぬまますっかり怠け癖がついた私は、山盛りの洗濯物と仕事を前に途方に暮れている。いつか2週間何もしない「ニクセン上級者コース」を試してみなければならない。