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台湾の温泉地・礁溪にて。白いアスパラと山葵。台茶17番の名前を教えてもらって思った食の好循環。

今年の夏、友人の計らいで、思いがけなく台湾宜蘭県の礁溪という温泉地にある旅館に泊まった時のこと。夜の食事を旅館のレストランでとっている時に、水色のポロシャツを着た、多分60歳は過ぎていると思われる男の人ー少し容貌が大仏様に似ているーが、ビュッフェの食べ物をのぞいては、足りなくなっているものを補充するよう若いスタッフに指示をしたり、お客さんのところに行って話をしていることに気が付きました。

夕食はサラダとパン、スープがビュッフェ式で、メインは自分で選ぶというスタイル。私はお肉を選んだところ、運ばれてきたお肉に、白いアスパラガスが添えられていました。
(ん?白いアスパラ?珍しいな)
台湾で見かけたのは初めてだったので、私たちのところにもやってきたその男の人に聞いてみました。

「すみません、この白いアスパラ、台湾で初めて見たのですが・・どこで採れたものですか?」
すると即座に、「はい。これはですね、彰化県で採れたアスパラです」

そして続けて、
「あ、それとこのソースですけれどね、阿里山で採れたワサビをすりおろしたものが入っていますよ。あそこのワサビは美味しいです。ちょっと味のアクセントになっていますよ」

そう言ってにこりと笑い、
「ゆっくり楽しんでいって下さい」
と、また違うお客さんのところに行ってしまいました。

確かにソースはワサビの味がして、その昔阿里山に行ったときに見かけた、山の商店で売っていた山葵を思い出し、宜蘭からは遠い阿里山の山葵をわざわざ使ってすりおろしてソースに入れていること、この旅館のお料理へのこだわり、そして台湾で採れる農作物への愛着とも思えるようなものが、ビビッと伝わってきました。

それからデザートとドリンクの頃になって、そのおじさんは又私たちのところにやってきました。
「お飲み物は何にしますか」

私が少し考えていると、
「紅茶はかいかがですか。日月潭の紅茶。紅茶の18番は『紅玉』という名前がついていて有名ですけれど、ここで出す紅茶は、17番ですよ」

18番は知っているけれど、17番なんかあったっけ?)

「17番紅茶の別名知っていますか?
 白鷺(シラサギ)
って言いますよ。聞いたことありますか?」

(いや、聞いたことありません!台湾のあの白い鳥、白鷺(シラサギ)という名づけられた紅茶があっただなんて)

「じゃあ、その17番の紅茶にします!」

程なくして、手の込んだとびきり美味しい抹茶のケーキと一緒に、17番の紅茶が運ばれてきました。
紅茶を飲みながら、「これはシラサギ、17番」、知らなかったことを教えてもらって、感謝をしながら味わいました。(多分、一生忘れない、美味しい17番のシラサギ紅茶)。

それにしても、あのおじさんは誰なのだろう?
料理の素材へのこだわり、お客さんに台湾産の紅茶を勧めてくれる、大仏さまのような表情の。

食器を下げに来た若いスタッフに、「あの方は誰ですか?」と聞いてみると、「あ、はい、あの方はここの老闆(社長)です」と。

なるほどそうか。水色のポロシャツを着て、自ら笑顔で接客をしながら歩き回っているあの方、老闆だったとは。

お腹も満たされ、食事をそろそろ終えようと思っていた頃、
老闆はまた私たちの方にやってきて、
「明日の朝ですけどね、朝食のおすすめは海鮮のお粥です。大きなロブスターが入っていますから。幾つかの種類から選べますけど、良かったら是非お粥を召し上がってみて下さい」
と、にっこりしながら明日の朝食のおすすめまで教えてくれました。

そして翌朝、
注文したお粥は、絶品。
ロブスターの大きいこと!

チェックアウトのときに、そのおじさん(いや、老闆)がいたので、
「お世話になりました。ここの老闆でいらしたんですね」と伝えると、
いえいえ、私はただの職員ですよ」とにっこり。

何とも、心に残る、老闆の笑顔(大仏様のよう)。
お部屋の温泉も素晴らしくよかったけれど、
彰化県の白いアスパラ、阿里山の山葵、白鷺紅茶・・・・。説明をしてもらえたことが、今でも心に残っています。

台湾は農業が盛んで、各地で農作物を一生懸命作る人がいて、それを仕入れて美味しいお料理を作り、この老闆のように嬉しく紹介する人がいて、その言葉を聞いて同じく嬉しい気持ちで味わう人がいて、、こんな食の好循環が生まれている場所は、豊かで幸せなところ、だと思いました。
故郷の北海道もそうですし、日本も津々浦々きっとそう。

最後に、朝食の海鮮粥はこんな感じでした。

お客さんに驚いて欲しい、満足して帰って欲しい、という老闆の「心意気」が感じられた海鮮粥。ごちそうさまでした。

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