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食は楽しみ

 十五夜に手づくり団子を供えて、家族で頂く、幼い頃の記憶だ。いつも母に任せっきりだった料理だけど、お団子だけはなぜかしら父が作っていた。

 食べ物の記憶が、すべて幸せな記憶と結び付くとは限らない。家族団欒の時に父と母のバトルが始まることも多かったし、煮物の汁にまみれたお弁当を隠しながら食べた恥ずかしい記憶もある。

 だからこそ今は、美味しいものを食べるならば、大好きな人達と一緒に味わいたいのだ。


「はい、これだけは食べてくださいね、お身体に触るから」

 昨日も今日もきっと明日もなんだ、食べたくない患者さんとのやり取りが食事のたび始まる。他の人の半分の量しかないのに、それすら食べるのを拒否して逃げ出すBさん。

 家族の方も面会のたび、食事量を心配して、痩せたら肩を落とし、太っていたら笑顔で病院を後にされる。

 スプーンを口許に持っていっても手で払いのける。時には口に手を入れて吐き出す。しょうがないから手を押さえて口許にご飯を運ぶ。

 そのたびにいや~な感じになるのだ。嫌がる患者さんに無理やりご飯を食べさせる、そんな光景は端からみたらそんなに無理にしなくても、と思うだろう。でも、食べなきゃ点滴、本人はそれでもいいと言うけれど、それでは何のため入院されたのか。

 食事って命を守るため最低限に必要なものを食べないといけないけれど、精神的にどうしても受け付けない人もいるのだ。それをほっとく事はできない。押し付けがましい態度になっても食べて頂く。これは食事介助する人にとって、ほんとに、ほんとにきついわ。


 分かってる、誰だって大切な人、大好きな人と美味しく食事をしたいのだ。それが生きること。そんな毎日を暮らせる事に感謝しないと。


 明日もまたBさんとのせめぎあいが始まる。少しでも柔らかい関係を築いて、食事を楽しく食べてもらえるようになったらいいな。







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