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やっぱり夏目漱石先生が好きだ!

 …と言っても数冊しか読んでないんだけど、それでも行間に含まれる感情の揺れと、じんわり温かい湿度の有る文章が好きなんだ。

 最初に読んだのは【吾輩は猫である】だ。小学校の国語の教科書に掲載されていたのを覚えている。リズムのある文章と猫が主人公という突飛な設定に、幼い私は面白いな!!って夢中になったんだ。

 それから【三四郎】だったと思うけど、これはたぶん読んだんだろうくらいしか覚えていない。もしかしたら、読んだ気になっているだけ?

 【それから】で、あっ!この作家好き!と恋に落ちた。全体的に雨雲が迫ってくるアンニュイな空気感に包まれている話だ。

 大学を出た後も定職につかず、本家に毎月一回生活費をもらいに行って裕福に暮らしている代助。しかし、友人の妻三千代と恋に落ち共に生きる決心をし、本家から絶縁されてしまう。若さゆえの純粋とでもいうのか。

 そのため、以前は忌み嫌っていた生活の為にあくせく働く仕事を求める。追い詰められた代助は走り回り、目の前の世界が赤く染まって見えるというラストだった。焦りの赤?激情の赤?身体中に流れる命の血の赤?

 三千代と出会って徐々に距離が縮まっていく様を、感情の言葉以外に的確に描写しているのに痺れたんだ。あぁ小説家って凄いんだな。言葉もちょいと古いんだけど、全く気にならないって、どんだけ面白いの!

 【それから】は雨が迫ってくる曇り空だったのが、【門】はしとしと雨が降り続き、たまに雨上がりの水溜りに映る空を見てひと息つくような物語だ。設定も登場人物も違うんだけど、続編と言っていいだろう。

 親友の奥さん御米を奪って、実家から勘当された主人公、宗介。(どれだけそんなエピソードが好きなんだろう?!)子どもが出来ても生まれなかったり、すぐ天に召されたりして、二人で慎ましく暮らしている。

 宗介には弟がいるが、父の死の際勘当されていた宗介は叔父に財産の管理と幼い弟を任せてしまう。数年後、叔父が死に叔母からは財産はもうないから、弟の学費は出せないと言われて当惑するが、とりあえず家へ引き取る。

 親しくしている大家が弟を書生として引き取ると聞き喜ぶも、縁があって安井が大家の元に訪ねてくるかもしれないと知り心乱れる。救いを求めて禅寺の門をくぐり数週間修行をするのだが、結局ピンとこないまま家へ帰り、今までと同じような日常生活が続いていく。

 【三四郎】からなる三部作という事で、明るく聡明で自信にあふれていた学生時代から、やれば出来る、今はまだ仕事を選んでいるんだ、と考えていた青年時代(それから)、目の前の生活で精一杯で弟の学費さえ出してやれない生活に追われている中年時代(門)と時は流れる。

 【門】は漱石先生44歳の時の作品。本家とか書生とかの言葉は今には馴染まず、明治や大正の独特な時代背景は現代とは違う。しかし、年齢を重ねるごとに感じる、諦めやその先にあるささやかな温もりは一緒なんだ。

 いつのまにか私は漱石先生の年齢を越してしまった。出来ることなら、もう少し先の物語を描いて欲しかったなぁ。

「のんきと見える人々も、心の底をたたいてみると、どこか悲しい音がする」 ー 夏目漱石 ー







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